アルマンディンとドルチェはノグの城下の一角にいた。
キリとタクトを足止めしたドルチェがアルマンディンの元へ赴くと
彼女は弟子を連れてすぐさま火の魔術を使ってノグへと飛んだのだ。
ドルチェが久しぶりの故郷の空気を堪能しているとアルマンディンの僕に当たる
ケルベロスを目の前にして小首を傾げる。

「どちらへ?」

「コーツァナへ戻るわ。アガタの弟子の顔をちゃんと見た事がなかったから。
ケルベロスを貸してあげる」

「ありがとうございます」

「ふふ、フォレガータに会いに行くのでしょう?よかったわね」

アルマンディンは炎に包まれて消えた。
世辞やひいき目なしにしてもアルマンディンは美しい。
流れる金髪が彼女の美貌を引き立たせていて、彼女もそれをわかっている。
大の大人でも震え上がる魔女と囁かれているが、同時に
その美しさに惹かれて寄ってくる男も多かった。
こと、男性の扱いには慣れている彼女であったがアガタにだけは
何一つ通用していないようだ。

この世で2番目に美しいと、ドルチェは思っている。


ノグの国は普段の騒がしさとは違いどこか慌ただしい印象を受ける。
警備に当たっている兵士が幾度となく行き交い、通常の営業をしている
店もまばらで、城下の人々の往来が少ない。
閑散としているとまではいかないが、通りには人と人の間の空間が
いつもより広くなっている。
城の結界もすっかり効力が弱まっており、アルマンディンやドルチェが国へ降りたっても
誰も気がつかない。
精霊は術者が必要だと思う情報以外は決して伝えない。
それが契約だからだ。
術者と精霊は必要最低限の力の均衡を一定に保つ。
魔女はコーツァナ王と一緒にいると思い込んでいるフォレガータ達はまさか
敵の魔術師がすでに城下へ降りているなどと知るよしもないだろう。
加えてドルチェの服装にも原因がある。
ドルチェはノグの魔術師が好んで着るローブを身につけていた。
気配を殺していても道を歩いていればどうしても誰かとすれ違う。
しかし彼らはその風貌からノグ国の魔術師だと思い込み、果てには会釈までしていく。
ドルチェはほくそ笑みたい気持ちを抑えて足早にノグの城へと向かった。

ドルチェが広場へさしかかったころけたたましく警鐘が鳴り響く。
兵士の焦りがにじみ出ている怒号が聞こえコーツァナ軍の到着を知らせている。
いよいよここは戦場になり、血が流れ、建物は破壊され、人々が悲鳴を上げるのだろう。
そう考えただけで心が躍った。
決意に満ちた表情の兵士達が自分の死の瀬戸際に立ったときの表情を
思い浮かべるのだろうと思うと熱いものがこみ上げてくる。
コーツァナ兵はまず馬鹿正直に城下の入り口から侵入してきた。
勿論ノグはそこの守りを十分固めており、応戦の準備をしっかりと整えている。
前線を指揮しているのはあろうことか将軍のドゥシャンである。
ドゥシャンは前女王からノグ国に仕え、フォレガータに膝を折っている男だ。
がっしりとした体格で体には戦争の傷かいくつかあり、それが彼の戦果を物語っている。

戦慣れをしていない兵士は焦りからかスキを作っては擦り傷をこさえていた。
それをたしなめつつも、確実に敵を退いていく中堅兵士達は落ち着いて状況を見極めている。
そして部隊全体の把握を務めるドゥシャンは腕組みをしながら体と同じく
大きな剣鞘に収めたまま地面に突き立て、両手を置いて前衛本部の陣にてじっと何かを待っていた。

(ドゥシャンがここに来ていると言う事は城は手薄だな…。
ドゥシャンを駒として扱えるのはフォレガータただ一人。
他に隊の統率を取ると言えばシャンニード、ウォンネーゼ…しかし
ウォンネーゼはコーツァナで刺客の足止めをしているから、残るはヘラルドのみか)


ドルチェは頭の中の情報をたぐり寄せて思考を巡らせる。
例え名うての戦士が揃っていようとも、数では圧倒的にコーツァナが上である。
それに対してフォレガータが馬鹿正直に正面さえ護ればあとは城壁が護ってくれると過信しているのならばコーツァナの勝利は目前だ。



(そうすればノグは敗戦国。略奪されようが、奴隷にされようが仕方の無いことだ)











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