炎はものすごい熱を発していたがその目標を少年二人だけに絞り、
勢いよく襲ってきた。
咄嗟に張った結界に護られてはいるがその灼熱までもを遮断するのは不可能だった。
キリはタクトを自分より前に立たせ、その肩に手を置く。
タクトは何が何だか分からないまま手をかざしておけと言う親友の指示に従い
その通りに行動する。
こともあろうにキリはタクトを媒体にして結界を張り続け、その間に
自分は別の魔法を発動させる準備を行っていた。
それもタクトを結界を張るきっかけにぐらいにしかしていないので
ほとんど同時進行で二つの魔術をつかっている事になる。
二つ以上の魔術を同時に使用する魔術師は確かにいるがそれには
高い集中力と技術が必要だ。

「ほお、面白いことをするな」

(随分余裕で…)

火を消すのは水。
水の精霊を呼び出したキリは炎が舞っている部分にだけ大粒の雨を降らせる。
火はあっというまに煙をあげてぶすぶすと消えていく。
完全に消えた頃にはようやくタクトは腕を降ろすことが出来た。

「やるならやるって言えよ!」

「暇が無かったし」

「上等。そこそこに力もあるようだな。アルマンディン様の足元にも及ばないが。
邪魔になるから消しておこう」

男が言うや否や二人は同時に駆け出した。
タクトは剣を、キリは槍を持って男に立ち向かった。
魔術師は殆どと言って良いほど物理攻撃に弱い。
魔術を過信しており、体力は魔術を扱える程度あればいいと思っている。
つまり武術においては素人同然なのだ。
だが、二人が斬りかかろうとした瞬間どこからともなく黒い服をまとった男が二人同時に表れ、そのきっさきを逸らした。
金属がぶつかり合う音は乾いて空に解け、獲物を見据える目で
キリとタクトの出方を伺っている。

「城は汚すなよ。アルマンディン様のお部屋が近いのだから」

フードの男がそう言うと黒服の男達は首だけで頷き、
軽く床を蹴ってキリとタクトにそれぞれ一対一の形で襲いかかった。
黒服の男は互いに小さなナイフのような同じ武器をを使用しており、
その腰にはもう一本、ナイフよりも大きい剣を下げている。
こちらが本命の武器なのだろうと踏んだキリとタクトはそれぞれ距離が開きつつも
目の前の襲ってくる男に集中する。
フードの男はいつのまにか消えており、恐らく彼はアガタの居場所を知っているに違いなかった。
アルマンディンの部屋が違いと言ったのが数少ないヒントだがそれだけでは
アガタの居場所はわからない。
襲ってくる男達は容赦なく二人の目、喉、心臓、鳩尾を狙ってくる。
小さな武器でキリの槍を器用に弾き、そのタイムラグを見逃さずにすかさず次の攻撃を繰り出す。
攻撃が大ぶりになる槍とは相性が悪い。
タクトの剣もどちらかと言えば大検に近いので超接近戦には苦労しているようだった。

(こんなの相手にしてる場合じゃない…ッ)

必死に間合いをとり、半歩下がったところで魔法陣を発動させようとしていた時だった。

まずはキリとの間合いを縮めようとしている男の左右の腕を細剣で器用に貫き、城の壁に切っ先を突き立てて動きを封じる。
そしてキリの持っていた槍を奪うと今度はタクトと交戦していた男の脇腹を
躊躇無く貫いた。
あっという間に決着がつき、ぽかんと立ち尽くす少年二人に呆れたように溜息を吐いた一人の男は足で床を踏みならした。

「ぼけっとするな。さっさと追え!」

「う、ウォンネーゼ様!」

「なんでここに!?」

ウォンネーゼ・ノグ・ホウヴィネン。
フォレガータのすぐ下の弟で、キリにとっては叔父にあたるその人は
フォレガータと同じく闇色のはねる髪を風になびかせ、王族とは思えない汚らしい
装いである。
ただ汚らしいのは服装だけでそれ以外にはきちんと手入れが行き届いている風だ。

「…ノグからずっとつけてきていた。お前らだけじゃ心配だと姉上に言われてな」

「ま、マジですか…」

「マジだ。ユルドニオから飛ばれたときは流石に焦ったけどな。それよりも早く行け。
義兄上はアルマンディンの部屋の隣だ」

「えっ、あっちじゃないんですか?」

フードの男はここからアルマンディンの部屋が近いと言っていた。
だが、巨大な結界が張られている場所はここからずっと遠くでしかも反対方向に当たる。

「あれはカモフラージュだ。なんの為の魔術師なんだ、お前は」

「あ…すいません…」

呆れて見せるところが少しフォレガータと似ている。
キリはウォンネーゼが好きだった。
シャンニードも勿論好きだったが叔父にあたるこの人は特別だった。
アガタを嫌い、アガタを許せないこの人が大好きだった。
ウォンネーゼの『嫌い』は姉を取られた故のそれだ。
ごく自然でごく人間味がありごくごく、普通の。
闇の魔術師の弟子だからとかそんな事も初めは言っていたが
本当のところはそんなのこじつけだったらしい。
実に素直でない。

だからキリはこの人が好きだった。

「まだ追っ手はいるが全部無視しろ。背中から切らせることは絶対にさせない」

「はい」

そう言って残り一本の剣を静かに抜き、更に現れた黒服の男達を睨んでいる
ウォンネーゼに二人は背を向けて走り出した。





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