アルマンディンが探しているのは金髪と黒髪の『少年』二人である。
だが男女であるならばいくらか時間稼ぎにはなるだろう。
敵陣の懐に入るのに用心するに越したことはない。
そう言った作戦に関して言えばずぶの素人の二人にはこれだけでもまだまだ不安でいっぱいだった。
魔術師にとって情報と言うのはありとあらゆる場所に存在する
精霊がいるおかげでたやすく手に入る。
だが、それにも向き不向きがあって、情報を司るトップの精霊はいつだって風の精霊だ。
それに続いて地の精霊、水の精霊と続き、火の精霊は情報を得るには一番向いていない。
タクトのように一つの属性しか扱えない魔術師でありながら火の属性だと
そう言ったものに関しては非情に不利になる。
故にタクトはその方面をすっぱり諦めて攻撃力を高めるのに専念した。
その反対で言えばキリはずば抜けて情報収集に向いている。
ただしタクトと決定的に違うのはキリは不得手ではあるが他の精霊も扱えるという点だ。

はたして魔女はどのタイプに属されるのだろうか。
二人が見た魔女は火の属性しか使用してはいない。
ムクタの町で二人を探していた精霊も恐ろしかったとは言え火の属性。
そして未だに自分達を発見できていないと言う事は彼女もまたタクトのように
一つの属性しか扱えず、それが情報収集を苦手とする火の属性だけである可能性が高い。
勿論過信してその事だけを馬鹿正直に信じてしまって、
実は他の精霊も使えます、なんて後から言われてしまっては手の打ちようがない。
あくまでそれは仮説として止めておくべきものだった。

(それにしても…あんなにでかでかと結界張ってちゃ、そこに
大切な物隠してますって教えてるようなもんじゃないのか…)

さりげなく一般公開中の城内へ滑り込んだキリはぴりぴりと伝わってくる
結界の緊張感に思わず溜息を漏らす。
この世界には魔術師は沢山いる。
特にノグは魔術の国だから秀でてその人口は多いが
彼らの多くの性質として研究心というものがある。
それはそこに留まって出来るものもあればそうでないものもある。
後者を求めた魔術師達はそれぞれ世界中を飛び回って自分の知識欲を満たしている。
コーツァナとてその知識の塊の一つだ。
それは魔術師によって対象はさまざまだが、魔術師は中央の魔女だけでなく
他にも沢山この場所に住んでいるだろう。

沢山の人で賑わう城内でようやくタクトを見つけたが合図もなしに
二人は少しずつその距離を縮めていく。
あくまでも人の流れに沿っていたら自然と隣にいた風を装う為だ。
言葉も交わさないまま隣に並ぶと周囲を警戒しながら人気の無い方へ進む。
列から抜け出た廊下は日陰になっていて少しひんやりとした空気が流れている。

「場所はわかるけど、遠いな、アレ」

「うん…さて…どうしようか…」

「何を、どうされるのです、お嬢さん」

コツ、と靴音がして二人が振り向くとフードを被った男がぽつりと立っている。
体つきは小柄なので女性とも見て取れるが声は男性特有の低さを携えていた。
ひやりと何かが首筋を撫でるのを感じながら最初に言葉を発したのはタクトだ。

「地元の人ですか?すいません、あんまり広くて迷っちゃって」

「どこからか観光ですか?」

「はい、ユルドニオの方から」

「それはそれは。遠いところからよくおいで下さいました」

フードをすっぽりと被っているので口元しか表情が伺えず、
その上日陰になっているので更に視覚がはっきりしない。
キリは薄ら寒くなって無意識のうちに腕をさする。

「日陰なので女性は体が冷えるでしょう。こちらが入り口ですよ、さあ」

キリの着ている服が女性物なのと、男と同じようにキリもレース布を頭から
被っていたので上手い具合に勘違いをしてくれているようだ。
だがキリは嫌な感じがして男が促す方へ行くのを躊躇っていた。

「どうしました?」

「あ〜、そうそう、こっちでしたっけ。すいません思い出しました、ありがとうございます」

底抜けに明るい声で男が示す方とは逆の道へ進むタクト。
親友もまた何かよくないものを男から感じ取ったのか男が指す、日陰よりも暗く冷たい
廊下を避けた。
そして、しっかり女性に扮したキリのエスコートを忘れず、腕を掴んで男の横を
通り抜けようとした時だった。

「ガキ共の割に勘がいいな」

男は低く、限りになく低い声でそう、呟いたかと思うと
足元に魔法陣を浮かび上がらせて火の壁を作り、二人の少年を襲った。

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