コーツァナ国のすぐ手前の森でキリとタクトは休憩を取る。
まだなんの仕事もしていない二頭の馬は別段することもないようなのでその
辺りの草を自由気ままに食んでいた。
休憩、とは言ったもののその程度に留まるような疲労のそれではなかった。
タクトが辺りの生い茂る草を剣で払い、ようやく二人が座れるぐらいのスペースを
作ったところにキリが太く空へ伸びる木に体を預けてぐったりとしている。
いままで何度か、距離短縮の為にキリと風の精霊の力で飛んだ事はあるが
いつも全力疾走をしたあとぐらいの疲労で済んでいた。
だが今回は勝手が違うのかもともと色白の肌に青みが差していて、
疲労、と言うよりは体調を崩したときのような状態に近かった。
それなのにキリはあと十五分ほどもすれば治ると言い、タクトにいつでも
出発できるようにさせている。
どうみても十五分やそこらでキリの具合が良くなるような雰囲気ではない。

(キリがこの状態だって言うのに俺はぴんぴんしてるし。こりゃほんとに
ちょっとしか魔力持っていかなかったな…)

このヤロウ…と親友の超絶ムダで腹立たしいまでの気遣いにタクトは心の中で罵る。
表情に出さなかっただけでもありがたいと思えと金髪の頭をそっと撫でると
うっすら額が汗ばんでいた。
それなのに自分は汗一つかいていない。
さらに腹が立った。

「何」

「なにじゃねーよ。ほんとに…」

「…これから多分タクトに頼ると思うから。前払い」

「おい待て今までのは何だったよじゃあ」

「…おまけの付録?」

「巫山戯んなばーか」

本当はもっと沢山言ってやりたい事があったがキリはすべて見通している。
ただ、無意識なのか自覚しているのか、タクトに怒られる予防線と言わんばかりである。
キリは宣言したとおり十五分ほどですっかり顔色が良くなった。
そんな馬鹿な、と口に出しそうだったがもしかしたらキリは肌の色まで自在に操れるのかもと思うとやはりそんな馬鹿なと首をふるタクトだった。
ようやく出番の回ってきた二頭の馬は食べるモノも食べましたと誇らしげな顔で
二人を快く背に乗せる。
初め、久しぶりに跨がる馬に二人は悪戦苦闘していたがコーツァナの市街地が肉眼で確認できるところまでくるとそれなりに様になって背筋を伸ばして馬をその場に足踏みさせる。
オアシスの国と言うだけ有るコーツァナは遠くから見ると大きな水路が通っていて
至る所に緑もある。
水路には大きな船が浮かんでいて人や物資を運んでいるようだ。
いよいよ目的地にたどり着いた二人は静かに馬を歩かせる。
コーツァナまでの道のりに往来する人が増えて来たからだ。
あまり慌ただしく走って何事かと注目されるのは避けたい。
オアシスの国であると同時に商業の国でもあるコーツァナは特に商店の多さに驚かされる。
いままで通ってきた国や町や村にも商店はあるが、これだけの規模の店は異様だった。
民家と思われるすべての建物に店の看板がぶら下がっているのだ。
三階建てや二階建ての建物のどの窓、どの扉にもすべて看板がくっついていて
それぞれ何かしらの商いを行っている。
家具屋から宝石商、銀行から八百屋、更には絨毯屋、爪磨き、そして掃除屋とその
業種は大小様々である。
街中に入ると道の横には常に水路が引かれ、向こう岸に渡る橋の多さ、
船の多さに目を見張る。
原色で飾り付けられた船の先導は元気に客引きを行っており、
ちょっとしたアトラクションのようにもなっているようだ。

「こんだけ栄えてんのに、なんでノグなんか」

「まあ、ノグの方が国としては規模はでかいからな」

馬から下りて徒歩で歩く二人は元気に客引きしてくる人々の表情を伺う。
どれも明るくてこれから戦争が起こるなんてちっとも思っていないようなそんな表情を。

(どう思ってるんだろう、ホントに)

馬を手頃な馬屋に預けてキリは早速コーツァナ城へ向かった。
城はノグやユルドニオのように高くそびえ立つような物ではなく
どこまでも横長にずっと広がっていて、時折ぽつりと表れる高い塔は
恐らく城の外を監視する為の監視塔である事が予想される。
城のあちらこちらにも無造作に見えて緻密に計算された植物の配置。
堅苦しいノグの城とは違って球体のなんだか可愛らしい屋根が建物の上に乗っている。
城壁の警備は厳しそうだが不思議な事に城門だけは観光客らしき人達が
ひっきりなしに出入りしている。
門番も特に呼び止めもしていないのが二人は不思議で通りすがりの女性を捕まえて
理由を尋ねればこの時期、水神祭と言うお祭りの時期で
この期間は城の一部分を一般開放しているのだそうだ。
その為、観光客も地元の人達もこの時を待ってましたと言わんばかりに城へ詰めかけるらしい。
これを利用しない手はない。
二人は異様なまでに厳重に結界が張られている位置をしっかりと頭に叩き付け、
すまし顔で別行動を取った。
魔女が二人を探していると言うのなら同行するのはリスクが伴う。
まずはタクトが城の中へ入り、様子をうかがう。
キリはと言えば城に背を向けて向かったのは服屋。
幸い、着ている服が男女兼用のものなので、次ぎするべきは声を変えることである。
風の精霊王を呼び出せばすぐに見つかってしまうのでなるべく下位の精霊を呼んで
声を女性のものに変えて貰う。
そうして手頃な女物の服を一式購入し、その場で着替えさせて貰って(勿論試着室で)
再び城へと向かった。





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