コーツァナが進行先にある村や町を焼き払っているという情報はすぐさま各地へ舞い込んでいった。
特にその先にある小国メルンヴァは情報収集に追われ右往左往を強いられた。
それと同時に着実に進んでいるコーツァナへ当初は無益な殺生、及び侵略、
略奪行為を直ちに止めるよう打診したが、すべてはねのけられてしまう。
コーツァナはノグに荷担する、同盟国であるメルンヴァを敵と見なすと、
そう返答してきたのだ。
それを聞いた女王フォレガータは、すぐに同盟破棄を提案したがメルンヴァは
それを良しとせず、それならばノグについて徹底抗戦の構えさえ見せた。
魔女が復活している情報を『どこから』掴んだのかはわからないが
(と、言う事にしておこうとフォレガータはこめかみを揉んだ)
全世界の驚異になりうる魔女をバックに置いた
コーツァナをメルンヴァは素早く危険だと判断したようだ。
仮に恐怖におののいてコーツァナへ付き従ったとしたらそれから先の未来は
暗いに等しい。

「近隣の小さな村まで馬で戦争の知らせを出すのは…時間がかかるな。
やはり早急に一つの村に一人だけでも魔術師を常駐させるべきだった。あるいは
ひよみの鳥を国民用にも作れば…」

「悔やんでも仕方の無いことです。それにその件に関して承認を渋っていたのは
他の大臣達です」

「しかし最終決断を下すのは私だ。くそ…」

「口が悪いですわ」

「ふん、私の口の悪さなど、お前の前に出れば子猫も同然だろう」

「あら、可愛らしいじゃありませんか、子猫」

小首を傾げた側近はとても女性らしい、と言うよりも少女のような雰囲気を漂わせる。
だが、フォレガータにとってはそれも彼女の武器の一つなのだと思っている。
フォレガータは骨の髄まで軍人だが、パメラは違う。
確かにフォレガータのように少しきつい印象を受ける容姿だがそれもまた彼女の武器。
彼女は女王のように剣や槍と言った実際に手に持つ『武器』ではなく、
彼女自身を『武器』としている。
だから単身、どこへでも乗り込んで会議と言う戦場を駆けるのだ。

「親猫が恐ろしいと言っている」

「私などまだまだ若輩です」

「お前が若輩など寒気がするぞ」

にっこりとパメラは笑みを浮かべただけでそれ以上は口を閉ざす。
そこから先は犯してはならない彼女の領域だと無言で示しているのだった。





普段は人と活気で溢れ、笑顔の絶えない街中もじわりと迫り来る大きな不安を
拭いきれない様子で、国民達は周囲を慌ただしく行き交う兵士の行方を静かに見つめる。
その殆どが、国外への避難を拒否し、女王と共に戦う事を選んだとは言え、
軍事のぐの字も知らない、ただの人なのだ。
火急に訓練を受けたとしても不意打ちの攻撃くらいならいざ知らず、
ただの付け焼き刃が本格的な戦場で通じるわけがない。
それも、みんなわかりきっている。
それならば中途半端に互いの畑は荒らさずに、それぞれ自分達の出来る事をしようと
城下の人々は誰が言い出したともなく自発的に、しかし静かに動いていた。
女子供はけが人が出たときに使えるようにと家中にある布から薬からをかき集めて
包帯を作ったり、足りないものは外出許可の出ている間に山へ行って薬草を補充したり。
老人達も足腰が弱っているとは言え、その頭には若い世代の人達以上の知識と経験が詰まっている。
彼らは子供から大人まで昔起こった戦の状況を教え、何が足りなかったのか、
何が役に立ったのか、何をすればよかったのかを些細な事も漏らさずに教えた。

ノグ国の、特に城下の作りは対侵入者用となっており、その町並みは
他国以上に複雑に作られている。
何年も住んでいる国民でさえ迷う事もしばしばでそれこそ
詳細な地図でもなければ、初めて訪れる人間には簡単に攻略できないようになっている。
その上、先人の知恵から、通路にはあらゆるしかけが施されていた。
それももう伝説の類いになっていたが、老人達はそれを見逃さなかった。
城にはそれらすべての仕掛けが書き込まれた地図が存在するらしいが、
そもそもそんな地図がある事さえ忘れられている節がある。
もしかしたら女王でさえもそれは知るところにないのかも知れない。

「あああ〜そのぉ〜ほらぁ、三丁目のジンさんの家があったじゃろぉ〜」

「じーちゃん。ジンさんの家はもうないよ。取り壊されたでしょう?」

「そ〜じゃったかいのぉ〜?はて〜」

年寄りと言うのは現在の記憶には疎くて、幼い頃、若い頃の記憶はずば抜けて有る。
地図を広げた家族はそもそも本当にそんな仕掛けが存在するのかさえ、疑わしく思わざるを得なかった。


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