コーツァナの軍は大勢の兵士を率いて着実にその足をノグへと伸ばしていた。
キリ達が通ったルートとは違い、最短距離でノグへ移動しているコーツァナ兵達は、
硬く青白く光る鎧をまとい、手にはそれぞれ槍や剣、背中には弓矢を持っている。
その中心にはコーツァナ国王であるデズモンド・コーツァナがただ一人、馬に跨がるでもなく、その足で歩くでもなく、輿の中でゆったりと前を見据えていた。
その傍らにはコーツァナ軍最高指令であるアーネスト・カーターがぴったりと馬をつけ、
軍全体をくまなく見渡していた。

「お辛くはございませんか、陛下」

「お前のおかげで快適だ。先を急がせろ。障害になる村は焼いて構わん」

「御意」

コーツァナ軍は総勢で約6万人。
対して事前に部下に調べさせていたノグの軍勢はおおよそ4万。
大差とまでいかないが十分相手を威嚇できる数だ。
とは言えコーツァナはノグのように軍事が発展している国とは言えない。
ある程度の防衛などは他国より秀でているものの、ノグの力には到底及ばなかった。
ただ、それは力のみでの話である。
戦略、戦術においてはその軍のトップの采配が左右される。
いくらノグの力が大きいとは言え、人数も勝らず、近年は大規模な戦も行われていない
この時代にいるノグの女王がどれだけの能力を持っていたとしても、
それは経験ではなく知識だ。
王家の人間は平民よりも寿命が長いと言われるが、それは他国とて同じ事。
フォレガータよりも長く生き、フォレガータよりも多く戦の経験をもつアーネストにとって、彼女はただのひよこに見える。

(そのお手並み、拝見させて頂こうかノグの『姫』よ)

アーネストはメルンヴァ近くの小さな村で生まれた。
メルンヴァの気候の影響が届いていたその村は、例年5センチ程度の降雪のみで
特に雪に悩まされることもなく平和に暮らせていけるところだ。
春になれば雪は溶けて緑が顔を出し、夏になればそれなりに気温も上がり、太陽が
地面をじりりと焼き、秋になると木の実やきのこがたくさん穫れて、
冬になれば辺りは一気に静寂に包まれる。
一年の半分が雪で覆われるメルンヴァとは違い、季節がはっきりしているのが特徴だ。
アーネストはそんな毎日をただただ過ごす生活に耐えられなくなり、
10代で家を飛び出して各地を転々として回った。
幸いにも剣の才能があったアーネストはその能力をいかんなく発揮して
日雇いの兵士をして日がな過ごしていた。
そこそこに実力もつき、名前も知れ渡った頃、今のコーツァナ王のデズモンドに
目通りが叶った。
王直々に軍へ迎え入れられたアーネストは、そして何度か他国との小競り合いを
すべて抑えてあっという間に今の地位まで登りつめる。

勿論、すべてが順調に進んできたわけではない。
何度も死にかけたし、ケガをした古傷も体の至る所に残っている。
逆に何人、何百、何千もの人間をその無骨な手で殺してきた。
その度に殺した相手の家族や恋人から敵だと復讐されることもしばしばあった。
アーネストはそれもまた仕方の無いことだと思っていた。
だからすべて返り討ちにしてすべて殺した。
可哀想だとは思わない。
戦争に参加している時点で死を覚悟するべきだし、それは当たり前の事だ。
引き留めもせず、逃げもせず、戦場へ送り出した家族だってその覚悟をするべきなのだ。
それを本当に死んでからお前の所為だと罵って復讐に来るなど、
責任転嫁もいいとろこである。
他人を殺しにくる覚悟があるならばどうして止める覚悟を持たなかったのか、と
いつもいつもアーネストは思っていた。

「指令、もうすぐ先に村があります」

「そうだな、知っている」

がしゃがしゃと進行するリズムとは違う音で近づいてきた一人の兵士が
アーネストの後方横に走ってくると一礼をして短く伝える。
アーネストはよく知るその村を記憶の中から呼び寄せた。
四季折々の自然豊かで静かな村。

「え?」

「先に早馬で村人へ食料、武器等の要請をしろ。逆らうなら殺して構わん。
物資がなかった場合もこれに同じだ」

「わかりました」


いつか必ず帰ると約束した家族がいるであろう、自分の故郷を
アーネストはこれから焼き払うのだった。






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