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キリは五人とは別の、王の寝室にいた。
ユルドニオ王はそっくりだと言われたキリをサミレフ達には弟だと告げず、
そうだな、他人にしてはそっくりだ、影武者にしたいくらいだとか適当に言いつつも
どこか慎重に説明していた。
四人が城へ到着する前にキリは自分がユルドニオ王家の血縁者であることを伏せるようにと言われた。
それは様々な混乱を防ぐ為であり、キリもむやみやたらと周囲に漏らされたくないと
思ったので好都合と言えば好都合だった。

「部屋の中まで星がついてるんですね」

「この城は占星術師が占い占星術を行うために作られた城だ。ユルドニオの初代国王は占星術師の妻の力を得て国を築いた人物だからな」

「陛下の母上様も占星術を使うんですか?」

「そうだな。我が国は歴代王の妻は占星術師と決められている。例外はあるが」

「例外?」

「俺だ」

キリはそれを聞いてちくりと胸が痛む。
ほんの少し肌が白い印象を受ける王。
見たところ元気に見えるが病に犯されていると告げたその唇は血の気が少し薄い。
こんなにも迫力があるのにどこかはかなげに見えてキリは言い様の無い不安感に襲われる。
それがなんであるのか言葉に出来ないのが悔しいが、
口に出したところでお前が心配することじゃないとこの人は言うのだろう。
弟であるキリに国王になれと言ったにも関わらず、身の心配をすればお前に
関係ないとはねのけるところがほんの少しだけ、フォレガータに似ている気がした。
きっと健康体であったなら優秀な占星術師の妻を娶り、これからもユルドニオを末永く
繁栄させられたろうに。

「いつまでも古いしがらみに囚われる必要などない。時代が進めばそれなりに
人間だって進歩しているのだ。国もそれにあわせて行けばいい」

「あの、他に国王候補とかはいないんですか?」

「女王を立てればなくもないが、ユルドニオはノグと違って王制だからな。
どうにもユルドニオ王家は女系らしく、あまり男子が生まれない」

男王を望む国の王家には男が少なく、女王を望む国は男にその周りを固められている。
皮肉を感じてキリはちょっぴり鼻で笑った。
その理由がわかっていたユルドニオ王も肩を竦める。

「お前が戻ってくれれば一番いいんだがな?」

「それはしません」

「そんなにはっきり言うな。少しはオブラートに包んで話せ」

「包んだってすぐ破れて本音が漏れますよ」

「東の魔術師に口も随分鍛えられたみたいだな」

少しむくれたように見えたのでキリは慌ててすみませんと謝罪の言葉を述べる。
どうにも兄だと聞いてから言葉に遠慮がなくなってしまうのだ。
目の前にいるのは紛れもない他国の王だと言うのにキリはついつい軽口を叩いてしまう。
実を言えばユルドニオ王が機嫌を損ねた理由はそこではなくただの嫉妬である。
待ち焦がれた弟が血の繋がりがないとは言え、育ての親にここまで絶対的な信頼を置いているのが少し面白くなかったのだ。
それは月日がそうさせたのだから仕方が無いが、それでももう少し
血の繋がりを感じて欲しいのだとつい我が儘をぶつけてしまう。

それから二人は息つくのも忘れて様々なことを話した。
お互いの幼少期、育った環境、見たもの、触れたもの、感じたことすべてを
時間の許す限り話し尽くした。
寝室に入る前にきっと喉が渇くからとスカラに持たされたお茶道具一式が
ここで本領を発揮するとは二人は夢にも思わなかった。
喋りすぎて喉がからからになり、お茶でも飲むかとようやく休憩の目処を
つけたところでスカラの好意の意図を知ったのである。
ただむやみやたらにお茶を勧めたのではないスカラに二人はお互いこっそり
感謝するのだった。

夜も更けたという頃、寝室のドアがノックされて侍女の女が王へ一通の手紙を手渡してきた。
話の腰を折られて少しだけ不機嫌になったユルドニオ王はいつもと様子の違う
侍女から手紙を受け取るとさっと表情に影を落とした。
硬い声色で侍女を下がらせようとしたが侍女は少し反応が鈍って一歩遅れて部屋を出る。
雰囲気が変わった王をソファに座って待っていると手紙を読みながら近づいてきた王は
ソファに腰を下ろす頃にはせせら笑いを浮かべていた。
そして無言でキリにその手紙を手渡してきたのでキリは戸惑いつつも立派な紋章が書き込まれたそれを受け取って読んだ。






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