田舎町から出て来た少年達は予約していた宿屋で二人の友人の帰りを待っていた。
だが少年達の元を訪れたのは友人ではなくて城の使いの者だと言う男二人。
友人達の性別は確かに男だが、使いの二人よりもうんと若いし、聞いた事も無い
言葉で喋ったりしなかった。
だから彼らが友人ではないのだとそれだけは理解できた。
それ以降のことは殆ど夢心地で聞いていた。

「俺…もう死んでも良いかも…」

「馬鹿、夢じゃないんだから楽しめよ、ふっかふかのベッドだぞ!しかもこれ、
天蓋ってやつだろ!?」

「メシも美味かったしな〜。最初は全然味わかんなかったけど」

「キリって本当の本当に皇子様だったんだな…」

「まーな」


宿屋で待っていた4人は使いの男にふらふらとついて行った場所に腰を抜かした。
自分達がいた町がすっぽり収まりそうな城に案内されると見知った顔が少年達を手招きして待っていたのだ。
よく分からないまま6人は合流すると、まず真っ先に浴室へ連れて行かれた。
埃まみれの体を洗いに洗って、丁度良い温度の浴槽へ沈めた途端、
体の芯がほぐれて少年達は天にも登る気持ちで溜息を吐いた。
体の汚れをすっかり綺麗に洗い流し、ほこほこと湯気が途切れないままの状態で
これまた案内された広間に行くと、長く真っ白なテーブルクロスが引かれたその上には
見た事もないごちそうがずらりと並んでいる。
そうだ、これはナニカの夢なのだと呆然と立ち尽くしているところへ
これらの料理を母と二人で作り上げた宴の主催者のユルドニオ王が現れたのである。
ただ、料理に驚いているのは四人だけでキリとタクトはへえ、とかすごいなとか
割と淡泊な感想しか述べなかったが、
それが余計に腹立たしかったので四人は一斉にキリとタクトに掴みかかって
あれやこれやと嫉妬の言葉を投げつけてやった。

「ぶっちゃけ俺、キリが皇子様とかちょっと疑ってたと言うか実感がなかったと言うか…」

「あ〜ワカル。世間知らずだな〜とは思ってたけどなんて言うか田舎者レベルって言うの?」

ナウラとラビはお互いを指差し合いながら相づちを打つ。

「アガタ様もあんな感じだったもんな」

「タクトは貴族なのか?」

「んーん。俺は一般庶民」

「どうやって出会ったの?」

五人は同じデザインのゆったりとした白い寝間着に着替え、だだっぴろいベッドにまばらに寝転ぶ。
ナディムに尋ねられたタクトはその問いが意外そうにすこし小首を傾げる。

「キリが皇子になる前、俺の住んでた田舎の山にいたから」

「えっ…えーと、じゃあノグの女王とは…?」

「あ〜。血縁じゃないよ。アガタとも血は繋がってないし。ってあれ?
知らなかった?ノグは結構有名な話なんだけど」

城は勿論、ノグの国民ならば誰でも知っている事実、キリは東の魔術師の連れ子であるが、東の魔術師とは血が繋がっていない。
近隣の国々にも知れ渡っているのでタクトは知らない者などいないのだと思っていたが、
やはり遠方になると情報もあやふやになったりするらしい。
『言っても支障の無い情報』を伝えるとさすがのサミレフもその話は
初めて耳にしたようで文字通り目をひんいて驚いた。
もともと立場の良くないキリにとってマイナスのイメージしかないはずだったが
フォレガータはそれを隠すのを許さなかった。
それには何故かアガタも同意していてキリもさほど気にする性格ではないので
ますます悪評に拍車をかけたのは言うまでも無い。
タクトはその話を最初に聞いた時は信じられないと思ったが今ではそれで
正しかったように思う。
下手に隠してその情報が漏れた時、ソレ見た事かと周囲のさらなる糾弾がキリを襲ったかも知れないからだ。

(まあ、そこまでは皆知ってる話だからいいけど、さっきのは…)

まずいかまずくないかで言えば、まずいかも知れない。
特に今の状況であるなら尚更まずいかも知れない。
救いだと言えばコーツァナの方から先に突っ込んできてくれた事だ。
ユルドニオ王家の血を引くキリがノグ王家になったとあれば真っ先に頭に浮かぶのが
政略の文字。
それが結婚でないとしても三大国のユルドニオとノグが手を組んだとみるのが
ごくごく自然な流れだ。
仮に、コーツァナがあらゆる策を持ち、今回のキリの情報をいち早く掴んでいたならば、
名実ともにコーツァナは世界の驚異になるとしてノグとユルドニオに攻め込んでいただろう。
ただ、コーツァナがお馬鹿でいてくれたおかげでただの侵略者としてノグはコーツァナを
迎え撃つことが出来るのだ。
戦争になってしまえば大義名分など闇底へ葬られてしまうのが関の山だが
人間は最後の最後と言うところで理性を保とうとする。
その理性こそが一番恐ろしいものだと言えた。

「それにしてもユルドニオ国王陛下とキリって似てたな?」

ナウラはぽつりとクッションを胸元に抱えながら呟く。
同じと言って良いほどの作りの顔が二つ並ぶとそれはそれは迫力があった。
美人とは並ぶと本当に迫力がある。

「確かに。金髪碧眼だからってあそこまで似るか?」

「サミレフはそんなに似てないしね」

ナディムとラビはちらりと大将の顔を盗み見た。

「どちらかと言えばエラーの方がキリに似てたな」

「ナニソレ、キリが女臭いって事?」

見られた当のサミレフはといえばあっさりとその事実を認め、
同じ形成がなされている双子の弟を思い出した。
男にしては華奢な体つきはサミレフとは似ても似つかないくらいに頼りない。
ふとタクトが旅の出来事を思い出した。
エラーと同じように女物の服を着た親友の姿を。

「ある!十分にある!キリの女装姿めっちゃ美人だったし」

「おい待てタクト詳しく話せ。詳しくだ」


こうして五人の夜はとっぷりと更けていくのだった。



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