8
昨日訪れた山へまた登るハメになったのは、放課後、みのるが秋太の手を掴んで、ぐいぐいと引っ張ったからだった。
放課後の掃除を真面目にこなし、クラスメイトの女子に真面目だねえと笑われた直後にみのるはいつの間にか目の前に現れたのだ。
「おま、授業サボんなよマジで…」
「秋太、早く帰って山に行こう」
「へっ」
「あーみのるがまた訳のわかんない事言ってる〜」
「転校生だからって無理強いしない方がいいよみのる」
「大丈夫だよお。秋太優しいから」
その会話でみのるのここでの立ち位置がほんの少しだけ理解できたのだが、このまま行くと自分もその立ち位置の仲間入りになりそうだ。
できれば目立たないようにしていたいのだけれど秋太の持っていたほうきをその女子に無理矢理押しつけて自分を引っ張っていくみのるはそれを許してくれそうにない。
「ちょ、待って、鞄!」
「お友達に持ってきてもらうから大丈夫〜」
お友達の部分がやけに強調されたので秋太はまだこの学校にはみのるのような人間に化けられる狐がいるようだ。
そうでなければ事情をよく知る人間が。
そのまま手を引かれ続けて、学校を出るまで何人かに笑われたが、秋太はみのるの歩くペースについていくので必死だったのでそれどころではなかった。
「みのる、ちょっと、……!」
「あれっ」
「あ?」
そろそろ手を放して欲しいと言おうと思ったらみのるの方から立ち止まってくれた。
止まってくれたのは良いが今度はぼーっと山を見つめたまま動かなくなってしまう。
よく見ると、みのるのとんがった獣の方の耳がぴくぴく動いているので恐らく何かの音を拾っているのだろう。
無意識のうちに手で口を押さえていた秋太は顔を撫でる風が少し生暖かかったのが気になった。
「秋太、てっぺんまで行かなくてもよさそうだよ」
「なんで?」
「あっちから来てくれた」
掴まれた手が解放されてみのるがにっこりと笑って振り向く。
笑顔なのにどこか気味が悪くて背筋がひやりとした。
[ 8/63 ]
[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]