「何よ、どうしたの?」

「え?あれ?」

まぎれもないフクロウの声で問いかけられ、秋太は頭の中いっぱいに疑問符が浮かぶ。
それ以上にフクロウが首をかしげていたが立ったまま夢を見ていたようだと
告げると途端に眉間にしわを作ってその内容を問い詰めてきた。
秋太はその気迫に押されてしどろもどろ話し出すとフクロウがものすごい剣幕で
秋太の首を絞めにかかった。

「それ!お前!山の神じゃないの!!どうして捕まえておかないのよ!!」

「捕まえちゃだめだろ!って言うか苦しい!首絞めんな!」

「絞めたくもなるわ、こんなにお前が馬鹿だったなんて知らなかった!」

「そこまで…でも、俺が名前を思い出したら助けてくれるって言ってたし」

ようやく手を緩めたフクロウは腕組みをして咳き込む秋太を下から覗き込む。
こう言う時は身長差に感謝したいと思う秋太だった。

「それで、思い出せそうなの?」

「…」

「やっぱりその首、ひねりつぶしていいかしら」

「すいません」

今現在では成す術なしと判断したフクロウは当初の目的通り、みのる救出に向けて歩き出した。
そのあとをいたたまれない気持ちのまますごすごとついていく肩をがっくり落とした
男子高生一人と大きな獅子一匹はそれからまたしばらく無言のままそのあとをついていくしかなかった。
長く感じられた道のりだったが学校へ着くとフクロウはすぐについたじゃないと
これまた不思議そうな顔で言い放った。
この空間ではそれぞれに感じる時間の経過が違うのだろうか。
フクロウと同じく不可解な気持ちのまま秋太が学校へ入るとすぐ目にはいる
階段に死神が座っており、その横に相変わらずぐったりとした狐がいる。

「弟とは別行動か。手間のかかる」

「一石二鳥でやられちゃ話にならないのよ。秋太、獅子に死神を食べさせなさい」

「へぇっ!?」

「間抜けな声を出しているんじゃあないの、さっさとしなさい!」

「まあ待て、フクロウ。狐の魂は返す。ただしその人間の魂は置いていけ。それが私の目的だ」

「お断りするから獅子に食べさせるのよ。大体なんだって今頃になって秋太の魂になんて
執着しだしているの、お前を動かしているのは誰なの?」

「お前にが知る必要のない人物だ」

「あら、そう」

フクロウと死神が話し込んでいる間に秋太は狐の体を拾い上げ、獅子は死神の後ろで
ぱかりと大きな口を開けていた。
フクロウがにい、と笑った瞬間、死神はその意図に気が付き舌打ちしていたが
瞬く間に獅子の口の中に飲み込まれてしまった。
獅子は口をもぐもぐ動かすとすぐに何かを二つ吐き出す。
一つは気を失っている死神、もう一つは丸く光る小さな玉だった。
フクロウはゆっくりとその玉に歩み寄って拾い上げ、秋太が不安そうに見つめる
ぐったりとした獣へ押し込める。
玉がスッと体の中に入っていったかと思うと今まで冷たかった獣の体に体温が戻ってくる。
それどころか口元に耳を近づけると浅いながらも呼吸音が聞こえてきた。
秋太がじんわりとにじんでくる視界を狐からフクロウに向けると
フクロウは神社へ帰ろうと秋太をせかす。
確かに、みのるをちゃんと休ませたいし、これ以上死神と一緒にはいたくなかった。
まだ気を失っている死神をそのままに、二人は神社へと急いだ。
獣のままの実は軽かったが体温が上がっていくごとにその重さが腕に伝わってくる。
無事に神社へ戻ると人間の姿には戻れないものの、うとうとしながら
言葉を発するまでにみのるは回復していた。

「手間のかかる狐ね」

「ごめんねえ」

神社の板の上にぐったりと横たわりながらも、ゆるゆるといつもの口調で発したそれは
まぎれもなくみのるのものだった。
もう長いことその声を聴いていなかった気がする秋太は下唇をきゅっとかみしめる。

「悪いと思うなら秋太にちゃんとお礼を言いなさい。獅子まで引っ張り出させて」

「うん。秋太、頑張ってくれてありがとう」

「別にいい」

「何照れてるのよ。みのる、お前はしばらくそのまま休みなさい。
西崎にはお面を作らせているし、夏生は私か春子が必ず見張っているから」

まるで春子のような口ぶりで秋太に呆れたような表情を投げかけると
フクロウは優しく狐の頭をなでながら言った。
みのるはどこか気持ちよさそうにされるがままに目を閉じていたが
すぐにゆっくりとその鋭い瞼を開く。

「秋太には?」

「鹿も、獅子もいるのに死神だってもうだせる手はないでしょう。それに
黒幕も引っ張り出さなきゃ」

「え!?そんなやついるの?!」

「言っていたじゃない。お前が知る必要のない人物だって。人間よ。小憎たらしい」

「なんでそんなこと…?」

「仮に神様だったらそれなりにへりくだった言い方をするし、俺たちのように
獣だったら獣、人だったら人と死神は言うからね。フクロウの作戦勝ち」

わかるのか、と尋ねる前にみのるがわかりやすく教えてくれた。
だからあの時、フクロウはそれ以上追及せずに勝ち誇ったように笑ったのだ。

「そんな畏まったものでもないわよ。死神が間抜けなだけ」

つい、と顔をそらしたフクロウだがまんざらでもなさそうに口元に笑みを浮かべていた。


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