秋太は幣を握りしめる。
フクロウに脅された気もしないではないが、弟が危ない目に合うよりはましだ。
普段は小さな喧嘩をするごくごく普通の兄弟だが、
特にみのるのことがあってから秋太は以前よりも命に敏感になった為、特にそう思うようになった。
もちろん弟だけではなく家族や友人などもその対象になる。
とにかくみのるの時のような気持ちになるのだけは絶対に嫌だと思っていた。
それは自己満足でしかないが、もし秋太にできる事でどうにかなるのであれば
なんだってやりきろうと決めていた。

「んで、どうすんの?」

「狭間に行って、死神に会って、みのるをもとに戻してもらうの。獅子も連れてくから、
普段よりも大きな入口を作らなくちゃいけないわ」

「わかった」

「あの、俺たちは」

残りの西崎と夏生が少し不安そうな表情を浮かべる。
それぞれに秋太が心配なのと、何が起こるか想像できないのと、だ。

「西崎は急いで葉っぱのお面を作りなさい。夏生、お前は西崎の手伝いを」

二人は真剣な表情で頷いて見せる。
その間に狭間を探っていた秋太は、そこを見つけるとぐいぐいと空間にスカートのような
滑らかなひだを作っていった。
夏生がぽかんと口を開けて見つめているのを無視して秋太は
さっきまではしゃいでいた獅子を中へ促す。
獅子は秋太の言うことを本当に理解できているらしく、声をかけると
大人しくその中へ体をすべり込ませていった。

「気を付けて」

「うん、じゃあ」

秋太とフクロウ(と、獅子)のチーム、西崎と夏生のチームに分かれ
それぞれに行動を開始する。
先を歩くフクロウの後に秋太が続き、その秋太の後ろには大きくて真っ赤な顔の
獅子がぴったりと寄り添っている。
時々あたりをきょろきょろと見渡したり、頭をかくしぐさをしたりする度に
耳や歯をカチカチと鳴らした。
どうみても祭りの時に見るあの獅子舞のしぐさそのものだが
中には人が入っているわけではなく、たしかに四足の生き物の感触だった。
ただ、胴体となっている風呂敷の部分をめくって中身を確かめる勇気がなんとなくなかったので
どういう仕組みで動いているのかフクロウに尋ねたら返ってきた答えは
「私たちと同じ」だった。
つまりはよくわからないのである。
空間からみのるのいる場所まではさほど遠くなかったはずだが、
歩けど歩けど学校までなかなかたどり着けない。
殆ど無言で進んでいたのでフクロウに話しかけるのを戸惑っていた秋太は
どうして声をかけるだけなのにこんなに不安なのかわからないままフクロウへ尋ねようと
声を上げた。

「なあ、フクロウ」

「どうしたの?」

「!?」

すぐに返事を返してくれたが声が違う。
驚いた秋太は思わず歩くのをやめてその場に立ち止まる。
前を向いたままのフクロウの姿かたちは女子高生のそれのままで一切変化などしていない。
ずっとその華奢な背中を見つめながら歩いていたのだから、
フクロウが誰か別の人物に成り代わる事も考えられない。
それなのに秋太はそれがフクロウではないとはっきりとわかった。

「どうして立ち止まる?」

「…やばそうだから」

「本当に危ないときは獅子が黙っていないよ」

フクロウもどきにそう言われて振り返るとあの大きな獅子は相変わらず秋太の機嫌を
取ろうとふさふさのしっぽを振り続けている。
妙に納得できてしまって秋太はほんの少しだけ警戒心を解いた。

「いい子だね」

「勝手についてきてるだけだ」

「獅子ではなくて、君だよ」

「は?」

「『善い言葉には素直に、悪い言葉には耳をふさぐ』」

「何?」

「私が最初に君たちに教えた言葉だよ、もう忘れてしまったの?」

フクロウもどきは前を向いたまま話し続ける。
秋太はフクロウの前に回り込んで本当にフクロウか確かめようとも思ったがやめた。
顔を無理にでも確認しようとすればあっという間に消えてしまいそうだったからだ。

「教えてなんてもらってない。大体お前誰だよ。死神?」

「さあ、誰だと思う?」

「知らない」

ぶっきらぼうに答えるともどきは少しだけ笑い声をあげる。
どんなに秋太がつっけんどんな態度をとってももどきは機嫌を損ねる風がない。
それどころかむしろそんな状況を楽しんでいるようだった。
秋太もどれだけ辛辣に当たっても、もどきは許してくれるようなそんな気持ちになって、
それと同時にどこか懐かしさを覚えていた。

「つれないなあ。じゃあ君を助けるヒントをあげる」

「は?」

「君が私の名前を思い出したらいい。こんなに事態が悪くなっているのは
すべて君のせいだよ。君が私の名前を思い出してくれたらきっと私は助けてあげる」

それなら顔を見せろと秋太は苛立ってフクロウの肩に手をかけて力任せに引く。
すると驚いた表情のフクロウがぱっちりとした目をまんまるにして秋太を見上げていた。








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