「ああやって人を化かすわけ」

「なあにが?」

「何が、じゃねえし。さっきの。席!」

ああ、と言ったみのるは自分の弁当箱のまさにエビフライに箸を付けたところだった。
プラスチック製の箸を上手に使ってエビフライをはさみ、口に運んで一口食べる。

「まー、よくある話じゃん?」

「ねえよ。自分の席間違えるとかどんだけだよ」

「あれ。理由、キツかった?」

「ちょっとな」

「そっかー今度はもっと上手くやるよ。うん」

唇の端についたソースを舌でぺろりと舐め取り保温の水筒からお茶をコップへ注ぐ。
動作は完全に人間なのだけれど、秋太には耳も尻尾も見える為とても滑稽な絵だった。
そう言えばあの大きな狐がどうしてこの少年を自分のところへ寄越したのか理由を聞いていなかった事を思い出して彼が食べ物を飲み込むのを少し待った。
自分はおにぎりを頬張り、口の中に酸味が広がっておにぎりの具を確認する。

「そう言えばさあ、なんで俺のとこに来たの?」

「あっそうそう。鹿と梟に引き合わせろって言われてね」

「…は?」

「あれっ?都会の人間は鹿とか梟、知らない?」

「いや、知ってるけど」

この酸味はやはり梅干しだった、と秋太は白いご飯に埋もれていた赤い物体の果肉を喉へ流し込む。
知っている動物だけれどその動物を見てどうしろ、と言うところまで言ってくれないみのるにやきもきして秋太はそれで、と先を促す。
みのるはまたそれに対して首を傾げて見せた。

「それでって?」

「会ってどーすんのって!」

「えっ」

「えっ」

「…多分、品定め…違うな見極め?うーん。なんて言うんだっけ…言葉が…ええと、俺をおれですよって相手に言うのってなんて言うんだっけ?」

「……紹介?」

「あー、それそれ!ショウカイ!」

みのるはどうにもあのでかい狐とは違い、威厳と言うものが感じられない。
さっき初めて会った時もなんと言えば良いか、自分の弟かそれよりも小さい…小学校低学年くらいの子供を相手にしている気分だ。
美味しそうに弁当を平らげていく少年は尻尾や耳を差し置いてもまさしく人間そのものだがやはりどこか違って見える。

「御馳走様でした。さっ昼寝昼寝」

「おーい、授業まであと5分しかねえぞ」

「出ないよう、俺は」

ごろり、とアスファルトに横になり、秋太に背を向けて手をひらひらさせるとみのるの声はすでに眠たげに波を打っていた。

「はぁ?!」

「秋太はちゃんと出ろよ。ニンゲンなんだから」

「ずりぃ!マジお前も出ろ!」

自分はつらい授業を受けなければいけないと言うのにこの男…いや狐は睡魔と言うものに立ち向かう事無く昼寝などと、秋太には許せるはずもなかった。
みのるの肩を掴み大きく体を揺らして無理矢理にでも起こした。

「狐にニンゲンの勉強なんて分かるわけないじゃん」

「午前中は出てたろ!」

「寝てた」

半分夢の中へ足を踏み入れているのか目をごしごし擦って仕方なげに身を起こしたがやはり完全に起きる気はないようだ。
噛みつくように言った秋太にみのるはあっさり午前中の行動を告げるとまたパタリとアスファルトへ身を投じる。
あまりにもきっぱり言われた秋太はもはや何も言えずに溜息をついて肩を落とすしかなかった。

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