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夏生は生まれたばかりの頃秋太とは違い、狐と人間の部分が上手く
混ざらいのが原因で長く生きられないと言われた。
どうして良いか途方に暮れていた時に神社の狐が現れて,
龍神を入れれば生きながらえられると言われたそうだ。
春子は何が乗り移っていてもいいから夏生を生かしたいと考え
それを承諾した。
その春子の前に現れた狐がみのるだと言う。
みのるが言うには龍神ももともと弱ってたらしくタイミングが良かったらしい。
持ちつ持たれつで龍神と夏生は身を寄せ合って互いの命を支え合う事になった。
狐と人間と龍神とが反発し合う恐れもあったがそう言う心配もなくよく混じってお互いに生かし合っていると言う。
「今はもう夏生も成長してるし龍神も力が戻ってきてるから出しても大丈夫だとは思うけども。今だしたら山の神がどう出てくるか」
「そんなの正直に話したらいいんじゃん」
「あんたねえ、ただの獣ごときが龍神様をほいほい移し替えたなんて知ったら
大変な事になんのよ!?」
「そんなん言ったって事実だろ。しらねーよ。こっちはとばっちり受けてるだけだっつーの」
夕飯を食べ終えた春子は自分の食器を流し台に片付けながら言った。
その背中に文句をたれる秋太と春子の二人の話の内容を気にしなければ
ごくごく普通の一般家庭に見られる日常の一幕である。
「って言うか大変な事ってなに?俺食われちゃったりすんの?怖いんだけど」
「大丈夫よ、そんな事にはならないから!」
安く請け合う春子に信用がもてない夏生は不安をめいっぱい態度に表したが
兄はそんな弟の様子も気に留めず味噌汁をすする。
「そうだ、みのるはどうしたら戻る!?」
「みのるはあのままで良いんじゃない。小賢しかったもの。丁度いいわよ」
「ふざけんなよくねーよ」
「…あんたみのるのどこが気に入ったの?」
春子は少し呆れながら同じく食べ終えそうになっている西崎に
熱いお茶を煎れている。
「気に入ってねえよ、って言うか普通は助けるだろ!」
「良い子に育ったわね〜関心するわ」
湯気の立つ湯飲みを受け取った西崎が小さく会釈した。
それを目の端に捕らえて秋太はちゃっかり自分の分も催促する。
「やかましい」
「まあ照れちゃって!」
「いーから教えろ!」
「大狐が復活のアイテムくれるから、行っておいで。不安ならフクロウを連れて行けばいいわ。あのクソ狐はフクロウが苦手だから」
「アイテムって…RPGかよ…」
「あら、本当の事だもの。大狐が自分で動くんなら別だけどもね」
なあ、俺の事は〜?!と泣きそうな声を上げる弟を宥めているうちにその日の夕食は終わった。
狭間に取り残されたみのるを助けるのだから明日は学校を休んでもいいか、
尋ねたら春子はそれだけは絶対に許さないと釘を深く刺してきた。
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