そのままフクロウと西崎は学校を抜け出し、大狐のいる神社へ向かった。
向かう途中、西崎が狸を携帯で呼び出したので二人が神社へたどり着くよりも前にそこに狸は現れていたようだ。
それから呼び出してもいないムジナもしっかりと二人を待ち構えている。

「とんだ失態だなフクロウ」

「わたしじゃないわよ。狐の所為よ」

狸は腹をたてているような、けれども何処かフクロウの失敗が面白いような
複雑そうな笑みを浮かべて言った。
フクロウは動じずに首を横へ振る。

「子狐の管理はお前じゃないの?」

「あら、私が管理してよかったの?」

「相変わらず口の減らない小娘だこと」

「あのっ、それよりも、秋太を…」

今度はムジナとフクロウが一騎打ちを始めそうになったので西崎が慌てて本題へと切り出す。
この3人が狼狽していないところを見ると本当に状況はそれほど深刻では無いのだろうか。

「ああ、ごめんごめん。さぁて。私が恩を売っておこうか」

ムジナはすらりと白く細い腕を空へ伸ばすと
空間に手を突っ込み、まるでカーテンを開けるような仕草で
狭間の世界へと半身だけ乗り込ませる。
狭間の中が少し薄暗くなっていてよく見えず西崎は不安そうに覗き込んだが
ムジナが誰かと何かを話しているのを聞いたかと思うと
その手には秋太の制服の襟首が掴まれていてそのまま勢いよく狭間から引き抜いた。
秋太の足のつま先が狭間から抜け出たところで薄暗いあの空間が閉じて
真っ青な空の色が表れる。
引き抜かれた秋太はぐったりしていて意識が無く、顔色も少し悪かった。
慌てて秋太へ駆け寄り、何度も名前を呼ぶが返答が無い。
それに引きずり出したのは秋太だけでムジナはみのるを助ける気が無いのか
狭間の中へ戻ろうとはしなかった。

「大丈夫。疲れているだけよ。春子のところへ戻して休ませましょう」

「大丈夫なのか?もう一人と一緒にして」

「春子がいて失敗があるとは思えない」

フクロウよりもムジナの方が秋太の母親の事をよく知っていると言う素振りで
西崎は違和感を感じずにはいられなかったが、みのるが気がかりで
カーテンのようなヒダを作ったはずの空間を見つめながら不安げに尋ねる。

「ねえ、みのるは」

「狐は大丈夫。どうせ魂を抜かれているだろうから放っておいても平気だよ。
むしろ狭間にいた方がずっと安全だ」

さあ、と促されて自分一人では運ぶ事など不可能な秋太を狸があっさりと背に乗せて
立ち上がる。
秋太は、ぐったりとして指一つ動かすことさえしない。
あまりにも顔色が悪いので本当に生きているのだろうかと腕にそっと触れたら
ゆるい体温を感じて西崎は溜息を吐いた。

「俺にもなにか出来る事があれば」

「西崎様はそのまま我らの陣営にいてくだされば良いのです」

狸はそう言ったが自分よりも前を歩いているので表情が伺い知れず、
それが本心なのかそうでないのかすらわからない。
大人に誤魔化されている子供のような気分をまさか動物たちからまで受けるなんて
思いもよらなかった。
その言葉がどれだけ自分を惨めにしているのか彼らは知っているだろうか。
それとも知っていてそうしているのだろうか。
ただ動物の姿が人とは違って見えると言うだけの人間に一体何ができるのだ。
動物たちよりも能力の劣る人間を陣営につかせて何の得があると言うのだろうか。
秋太の家に着くとぐったりとした姿の自分の息子を見て取り乱す事も無く春子は
狸たちを家へ迎え入れ秋太をベッドまで運ばせた。
丁度弟の夏生も帰宅していた頃で彼はさすがにいつも元気だけが取り柄のような
兄の変貌ぶりに少なからず動揺を見せていた。
本当ならこれが本来の反応なのだ。
不安そうな次男をリビングのソファへとりあえず座らせると春子は
狸、ムジナ、フクロウを三人並ばせて夏生と向かい合わせて座らせた。
秋太がどう言う状況にいるかを簡単に説明させると夏生は健康的に日焼けした
その顔から血の気を引かせていった。
本人もどこかでうすうすは気がついていたようではあるが、
自分の半分が狐の血であるが故に頻繁に狐に遭遇するのだと思っていたが
やはりそれだけではなかったのだ。

「とりあえず西崎くん、今日は家に帰ってゆっくり休みなさい。貴方も疲れたでしょ」

「俺は大丈夫です…」

「いや、西崎さん秋太に負けないくらい顔色悪いよ」

夏生が心配そうに言った。

「それともお家に電話して今日は家に泊まる?」

「いいんですか?」

秋太が心配だった西崎は春子の提案に表情を明るくする。
親としては不本意ではあるけれど、と春子は肩を竦める。

「ほんとの事言うと君が家にいてくれた方が助かるんだよね」

「何か協力できることがあるなら、します」

春子はありがとう、と母親の笑みを浮かべていた。



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