本来ならば狸に助けを求めるべきだったのかもしれないが気が動転している西崎にはそんな気遣いすら出来なかった。
慌ててフクロウのいるクラスまで走って行くとまるで待っていたかのようにフクロウが自分の教室の入り口の前で立っている。

「フクロウ、しゅ、秋太が…みのるが…!」

「まずはお前の呼吸を整えなさい。それから、場所を移動しましょう」

至極冷静にフクロウが言うと西崎は蒼白な顔のままだまって頷く。
珍しい来客にクラスの特に男子が目を丸くしていたのにも気を回す余裕はなかった。
二人は連れだって誰もいない屋上へ向かい、入り口のドアをしっかり閉めて
なるべくフェンスの方に身を寄せた。
屋上へ着いてからも西崎の呼吸はなかなか整わなかったがフクロウは
辛抱強く彼が落ち着くのを待っていた。
普段から運動が苦手な西崎はこの時ほど体力をつけようと、普段体育の授業を
疎かにした事を後悔した日はなかっただろう。

「それで、どうしたの」

「あの、死神が表れて、みのるが急に動かなくなって…俺は秋太に逃げようって言って最初は二人で玄関まで走って逃げたんだけど…
狭間の裂け目が見えない俺をこっちに押し込めて秋太が狭間に残っちゃってそれで…」

「みのるが動かない?魂を吸われたの。馬鹿ねあれほど死神には気をつけろと言ってあったのに」

「それって死んだってこと…?」

「いいえ。吸い取っただけ。魂はおそらく死神が持っているだけだから大丈夫。
秋太も大丈夫なはずよ。まだね。
ただ秋太の弟も連れて行かれたらいよいよ危ないでしょうけど……鹿を呼ばなくちゃ。
私たちの中では一番神聖な生き物だから死神もあまり鹿とは対峙したくないでしょう」

フクロウの口ぶりからしてさほど危険な状況ではないと読み取ると西崎はようやく安心して胸をなで下ろす事が出来た。
深く息を吐いて、フェンスによしかかると急に膝から力が抜けてそのまますとんと
堅いコンクリートに腰を下ろす。
一番最初に相談したのがフクロウでよかったと寒気のする体をさすりながら思った。

「でも秋太が狭間に長時間いるのは少しよくないわ。さっさと探し出して引っ張りださないと」

「どうやって」

「そういうのはみのるが得意なんだけれど。面倒ね…あの馬鹿。お前のところの狸は呼ぶ事ができる?」

「うん、呼んだら来てくれるとは思う…」

「ならそうなさい。お前が私たちを頼って一番面白くないのは狸なのだから。
ムジナのことは気にしなくていいわ。アレは勝手に情報を集めてやってくるだろうから」



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