この恐怖は以前とは違う。
身の危険など頭から吹き飛んでいる秋太は、まだ生暖かいけむくじゃらの体を少し優しくゆすってやった。
細い目をしっかりと閉じた狐は微動だにせず力なく床へ横たわっている。
市販されているぬいぐるみだってこんなに柔らかく倒れ込んだりしないのに。
死神が何をしたのか、本能で理解していたが頭では理解したくなかった。

「みのる!!」

「しゅ、秋太!だめだ逃げよう!」

「みのるが…」

「今度は秋太の方があぶないよ!」

西崎のこんな大きな声は聞いた事が無く秋太は泣きそうな顔のまま肩を跳ね上がらせる。
秋太の腕をひっぱる力も、急かすその様子もいままでだって一度たりとも見た事が無い。
一緒にいる時間は少ないがそれでも彼がこんなにも焦っているのは初めて見た。
言われるままに秋太はみのるから離れて立ち上がる。
せめてこの狭間から出なければいつまでたっても死神からは逃れられない。
不思議と追いかけてこない死神を背後に感じつつも、二人はまずはその場から離れる事に集中した。
教室から離れ、玄関まで荷物も持たずに必死に走りそこでようやく肩で息をする。
咳き込みながら呼吸している秋太を気にかけつつ辺りを見渡して西崎が様子をうかがったがやはり死神は追いかけてはこないようだ。

「どうしよう、俺お面を持っていないから狭間が…」

「俺が探す」

秋太の瞳が人間のそれとは別なものになり目を細めると瞳孔が細くなっていく。
落ち着かない心臓をさえながら辺りをきょろきょろと探しなんとか狭間の裂け目を見つけて西崎をその場所へ促した。
お面が無い為、西崎はここだと指をさしても伝わらないのは自分が経験しているだけに
その不安はよく理解できた。
だいぶ走ったと言うのに普段から色白の友人の顔には全く赤みが差していない。
秋太はそっとその少し頼りない背中を押してやる。

「ごめん、西崎」

「えっ」

そう耳元に声がしたかと思うと振り向いた西崎の目の前で狭間の裂け目がいびつに閉じていく。
それもそのはず、秋太が無理矢理に裂け目をつなぎ合わせていたのだから。
慌てた西崎は裂け目に手を伸ばしたが間に合わず、またあたりはいつもの賑わいを取り戻していた。
深刻な顔で宙へ手を伸ばしている西崎を周りの生徒達が不思議そうに見つめる。
そのうちの一人がどうした?と声をかけたが西崎はそれにうまく応える事が出来なかった。

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