「私の感覚でも覚えていたのか混沌の子」

「なんの用だよ」

「私の用事はただ一つ。お前を狭間に戻す事」

秋太の声は震えてはいなかったがはっきりと緊張しているのがわかる。
みのるは、死神の気配を秋太よりも先に察知出来なかった事にやや驚いたが今はそんな事を気にかけている場合では無かった。
すぐさま秋太の隣へ駆け寄り、秋太を守るようにして死神と秋太の間に立つ。
西崎も秋太の隣へ近づいてから当たりを見渡し、教室がいつのまにか狭間の空間になっている事に驚いていた。
突然現れた小さな子供に周りが騒がないのがその証拠だ。

「それは困るねえ」

「生けるもの、お前が守るものではないものを守る必要がどこにある?」

「そりゃあ、主様の小間使いを減らされたら困るからだよお」

「大狐が取り出した魂がこうしてまた新たな混沌を生みだそうとしている」

「そもそもその考えが間違っているだろう。もともとはこの世のすべては一つだ。
それが細分化されただけであって、彼らは戻ろうとしているだけだろう。死神の癖にそんな事もわからないのか」

秋太は、みのるの背中を見つめてその異変に気がついた。
いつもみのるの頭の上でぴくぴくと動くとんがった大きな耳とお尻についている太くて大きなしっぽの毛が死神を警戒して逆立っているのだ。
ほんの数秒前まで聞こえていた周りの生徒達の話声も、椅子を引きずる音も、
制服の衣擦れの音ですら聞こえない。
空気がひんやりして肌寒ささえ覚える。

「…。狐の命など、瞬時に吸い上げられるぞ」

「それは困るけど、秋太を連れて行かれても困る。勿論夏生くんもだけれど」

「大狐の尻ぬぐいは大変骨が折れるものだな」

死神の声が少し呆れたように聞こえて気が緩んだのをこの時秋太は後悔する。
死神は、ふわりと体を宙に浮かせてその小さな手でみのるの首をわしづかみにしたかと思うと今度は大人ほどの大きさへ急成長しそのまま手のひらへ力を込める。
みのるは苦しそうにウッとうめき声を上げただけで人の姿がみるみる元の獣へと変わっていく。
やがて死神の半分ほどの体長になった狐は首元を掴まれたま力なくうなだれた。
動かないとみてとると死神は手のひらを広げて狐を地面に落とす。
ぼとりと鈍い音がして秋太と西崎はそれを呆然と見つめるしか出来ないでいた。
みのるだったはずの狐はぬいぐるみよりも力なく床に横たわっている。
秋太は何度か呼びかけたが返事どころか体を一ミリも動かす事は無かった。


[ 54/63 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -