「恐らくね、死神を差し向けてきたのは、川の神…だと思うんだ」

「なぜ」

「狐の間にある古い言い伝えでねぇ。狐が人の魂を見逃してくれと川の神…龍神に頼んだ事があるそうだよ。魂の数は二つ。狐は見逃してもらった魂を狭間に押し込めた。理由はわからない。それが秋太と秋太の弟だとしたなら、十中八九川の神だ」

「どうして狐はその二つの魂を見逃してくれと頼んだの」

「幼い兄弟でね、両親が人身御供にされた。狐は小さい頃からその兄弟と野を駆けて遊んだらしい、それで情が移ったんじゃあないかなあ」

「…それ、勿論大狐も知っている話よね」

「そうだねえ」

「なのに私には何も知らないと、お前に聞けと言ったわ……」

「主様の『口』から言ってはいけない事だからじゃあないの」

「………」

学校からは少し離れた商店街のビルの一階にあるファストフード店は
平日の昼間だと言うのに来店客で賑わっている。
ガラス張りのカウンター席からは街を行き交う人達がよく見え、ぽつりぽつりと間隔を開けてサラリーマンなどが席を埋めている。
みのるとフクロウはそれぞれにチーズバーガーとてきやきバーガーを頬張りながら
街を歩く人達を眺めていた。

「お前に聞けと言うのは、お前に危険が及んでもいいと言う事なの」

「さあ、そうかもしれないし、そうでないかもしれないし」

「お前、今回の計画についてはどう思っているの」

「主さまと同じだよ」

「お前と話していると腹が立つわ」

「そうかなあ。俺はフクロウと話をすると頭がよくなった気分になれるから好きだよお」

間延びした口調で最後の一口と言わんばかりにチーズバーガーを放ったみのるは
セットで頼んでいたオレンジジュースをすぐさまにすする。
真実の顔が見えない狐にやきもきしながらもフクロウはゆっくりゆっくり自分の分のテリヤキバーガーを食べていた。
それから二人は、なんら悪びれも無く学校へと向かった。
3時間目の授業から顔をだしたみのるに盛大にしかめっ面をしたのは勿論秋太である。
教室に入るや否や、眉間にしわを寄せて席に着くまで睨んで寄越すのだからさすがのみのるも表情を歪ませた。

「そんなに怒らなくてもぉ」

「うるせーよ」

「酷いよねえ、西崎くん?」

「まあ…」

「狐だからって甘やかすな。なんかむかつく」

「秋太は俺の事を思ってくれてるんだもんねえ。俺嬉しい」

「気色わりーんだよヤメロ」

つい、と顎を逸らしてまだ授業も始まっていないのに黒板へ視線を向ける秋太が
フクロウと重なってみのると西崎はつい笑みをこぼす。
とは言え二人にそんな事を漏らしてみれば特にフクロウは腹を立てて威嚇してくるに違いない。
機嫌が直るまではあまり声をかけるのを避け、二人は次の授業の内容やまだまだ先に訪れる学校行事について話しに花を咲かせたのだった。
他愛もない会話をしていて急に頭を上げたのは秋太だった。
黒板を見つめているのには代わり無いがどこか緊張感が漂っている。
不思議に思ったみのると西崎が声をかけようとした時に二人はその異変に気がついた。


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