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よっ」
「おお………」
新しく転入した高校はそこそこに新しいらしく、木造のボロ校舎をイメージしていた秋太は高校の下見の際、げんなりする事がなくてよかったと胸をなで下ろした。
生徒数はさすがに少ないもののフレンドリーに接してきてくれるクラスメイトにありがたみを感じた転校初日。
フレンドリー…と言うにはほど遠いほどに馴れ馴れしい目の前の一人の生徒に眉を潜めたが、違和感を感じたのはその馴れ馴れしさだけでない事に気が付いた。
「お主さまがお前に色々教えろって」
「ああ、昨日言ってた…って言うかその、耳とか、尻尾とか」
「え?あー、大丈夫普通の人間には見えないから!」
ここで余計にお前は誰だなどと騒ぎ立てる方が不自然と感じ、努めて日常会話をするように会話を続ける。
秋太が指を指した少年の真っ黒な頭の上には黄色とも茶色ともとれないとんがった耳がのっかっていて時々ぴくぴくと動いている。
名前も知らない少年はさも問題はないのだと笑い飛ばして言った。
「俺、森山みのる。って名前を貰った」
「えっ森にいるから?」
「そうそう。お主さまももう少し考えてつけてくれりゃいいのにな。ちょっと安直すぎ」
そう言った狐のみのるは人差し指で頬をかいて見せると、ふむ、と教室の中をさっと見渡す。
何か探しているようにも見えたが不意に歩き出して、一番後ろの窓際でも廊下側でもない、真ん中あたりの席に鞄を置いて座った。
すると他の男子がみのるに近づいていき不思議そうに首をかしげる。
「あれ、そこ、俺の席…?」
「え?何言ってんだよ。お前の席隣じゃん。忘れたの?」
「そーだったっけ?」
「そうだったよ」
「マジで?悪ぃ、俺ボケてた。お前の机に教科書入れちゃってたわ」
「気にすんなって。よくある事だし」
自分の席を間違えるほどの人数でも座席数でも無いはずだし、そんな間違い頻繁にあるわけが無い。
秋太は目を凝らして二人の様子を伺っていたがみのるがこっそりにやりと笑うのを見逃さなかった。
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