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少女は予想もしていなかった人物に目を白黒させる。
そういうところはやはり鳥類を彷彿とさせた。
彼女の無事が確認できて自然と綻ぶ表情を隠さずに秋太は、
すぐに届きそうなフクロウへ手を伸ばす。
「やっと見つけた。ほら、帰ろう」
「…なにその手」
「繋いでないとまた迷い込むって。反対の手は、みのると鹿と繋いでる。ほら、早く」
フクロウは鷹がまだ付近をうろついているか不安なのか顔を顰め、元の世界へ戻るのを躊躇っているようだ。
ずっと前に、昼休みにカラスが現れた時に『フクロウが血だらけになって』みのるのところへ来たと言っていたのをふと思い出して、今回のようなことが1度や2度ではないのがよく分かった。
黙っているフクロウを無理やり戻すよりは、もしかしたらこのままここで生活していた方がフクロウにとっては安寧の日々を送れるのかもしれない。
「こいつがお前の好きなシュウタかっ!」
声がする方へ視線を移してそういえばフクロウ以外にも誰かいたなと思った瞬間、
フクロウが素早く少年の肩を踏みつけて威嚇した。
少年は黒っぽい服に身を包み、狐の目がある所為か彼がほんの少しだけ普通の人間とは違うもののように感じられる。
フクロウがこんなにもこの少年になじんでいる(?)のが何よりに証拠だ。
相変わらず手厳しいなと思った矢先、少年の言った言葉が急に脳内で繰り返し再生され始めた。
聞き逃すべきではない言葉だ。
「え、フクロウ俺が好きなの?」
思わず口元をゆるめてしまったのが失敗だったか。
そもそも失言だったようでフクロウが少年から自分の方へ振り向いた時の
眼光と言ったらまさしく闇夜に光る金色の目であった。
「スミマセン冗談です…」
「別に、嫌いではないわよ。例えばその……寝癖の角度とかは」
「は?寝癖??」
「秋太〜そろそろ切れ目が閉じるよお!」
「ええ?!」
「ダメだよみのる邪魔しちゃ!秋太はフクロウといちゃこらしたいんだよ!」
「うるせえよ!」
けたけたと笑い声が足下からしてくるが彼らが自分の命綱なのでそれ以上は強く言うことが出来ないだけに秋太の葛藤は大きかった。
随分仲良くなったらしい少年となにやら別れを告げていたフクロウは、
そこそこに挨拶を済ませたようで制服のスカートをひらりと翻して
振り向いたかと思うと白く細い手を秋太に差し出す。
今度はさっきのように逃すまいと、しっかりと華奢な手を掴む。
よく見ると鷹がつけた手形の跡はすっかりきれいに消えていた。
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