蒼白な表情で入口であった切れ目の跡地を見つめていると不思議そうにみのるが近寄ってくる。
入口が消えてしまったことを説明するとみのるは、軽い調子で当たり前だと答えた。

「狭間の切れ目はねえ時間が経つと消えるんだよお。その代わり、また別なところに切れ目ができるから安心して。ただしどこに出来るかどうかはらんだむだけれど」

「それを早く言えよ!ビビったじゃん!」

「ごめえん。あっ鷹あ」

みのるが突然合わせていた視線を上に逸らす。
背後から右肩に相当な重量の衝撃が走って、すぐに振り向く事すらも躊躇われるぐらいの全身で感じる不思議な圧力。
大きな手と思われる感触から圧力が送り込まれると肩に痛みが走り、ようやく秋太はゆっくりではあるが後ろを振り向いた。
振り向いたのだがそこに顔が無く、分厚い胸板が一番最初に目に入る。
ゆっくりと視線を上にあげて行ってようやく相手の顔が見えたがそのがっしりした体系もあって、表情が一気に凍りつく。

「…フクロウは」

「こんなところまで追いかけてきたの。随分ご執着なさってるのね」

「バレンタインのチョコは」

「だから、それは季節が違うって…いった!放しなさいよ!」

秋太とみのるを文字通り押しのけて、目的のフクロウを見つけるや否や、大男は脇目もふらずに少女の元へ一直線に歩いて行き、その太い腕でフクロウの白く細い腕を力一杯に引っ張る。
見るからに土管とたこ糸ぐらいの差がある二人の腕の太さを見ればフクロウが痛がるのは当然だった。
それに加えてあの筋肉で力一杯…なのかどうかは不明だがとにかく捕まれれば誰でも顔を顰めるだろう。
ましてやフクロウは女の子である。

「痛いってば…この、馬鹿力…!」

「離せばチョコをくれない」

「あんたなんかに誰がやるもんですか!私は別な」

「えーと!あの!」

ここは格好良く男の手を振り払って庇えられたら一番いいのだが、なにせこの体格差である。
フクロウよりはいくらかがっしりしている秋太でさえ、鷹の横に立っていても貧相に見える。
しかし、フクロウの痛がり方も目に余るものがある上、みのるも鹿もどう言うわけか
フクロウを助ける気が無いらしくただ見ているだけなのだ。
目に余った秋太はとりあえず、鷹の手首からだけでもフクロウを解放してやらなければと思った。

「…狐の目」

「あの、ちょっと離してくれません?フクロウ痛がってるし」

「秋太」

「うるさい」

鷹が小さく呟いたかと思うと胸から喉にかけて鉛玉をぶつけられたような衝撃が走り、秋太は軽く飛ばされて地面に尻餅をついた。
息をするのもうまくできなくて咳き込むし、尻餅をついて手足は擦り切れて痛い。
痛いところだらけだが、それよりも吹き飛ばされた事の方がびっくりした。

「秋太!」

「いってー。あー、びっくりした」

「うあああ秋太大丈夫!?鷹!何するんだよっ!!」

「邪魔だったから」

「邪魔じゃ、なーあいッ!」

子供か、と思わず突っ込んでしまうくらいまっすぐに突進した鹿が
あの大きな体の鷹を吹き飛ばした。
鷹も先ほどの秋太と同じように吹き飛ばされたが本人は何が起こったのか理解できていないようで目を白黒させている。
その隙に秋太は起き上がって解放されたフクロウの元へ近づき、人の手の形で真っ赤な跡がついている細い手首を見つめた。
鬱血する程に握りしめられてよほど痛かったのだろう、フクロウはずっと自分の手首をさすっていた。

「戻って湿布貼ってもらおう」

「秋太こそ。手のひら切れてるわよ」

「俺は別に大丈夫」

「……ごめんなさい」

「は?えっ、フクロウ?!」

「!フクロウ!そこはだめだ!」

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