まず、手を二回叩く。
本当は頭を撫でるけれど、そこは省略するのだと狐は言いながら目を撫でる仕草をして見せた。
秋太は言われた通り手を二回叩き目を瞑って両手でまぶたをそっと撫でる。
ゆっくりと目を開いてと誘導され、言われた通りにそっとまぶたを上へ上げてあたりを見渡す。
特に変わったようなところは見受けられないがうっすらと歪んで見える場所がちらほらと視界に入る。
恐る恐るそこまで歩いて行きそっと手を伸ばした秋太ははっきり見える狭間の切れ目にただただ驚くばかりだった。

「すげ…」

「もう一つすごいことお。フクロウ、鏡を貸してくれる?」

フクロウはポケットから小さな携帯用の鏡を取り出してみのるへ手渡す。
みのるは、目を細め、三日月を逆さにしたような目でにんまりと笑うと秋太に鏡をかざして覗かせる。
秋太は不思議に思いながらもみのるがかざした鏡を覗いた途端、目を見開いて鏡から急いで離れたがその映像は脳から離れずに焼き付いた。

「なに…ッ」

「だから『狐の目』よ」

茶色と黒が混じったような瞳の色だったはずの自分の目がうっすらと黄色を帯びて、瞳孔が縦に細長く伸びている。
猫にも似ているがとにかく人間の目とはほど遠く、秋太は跳ね上がる心臓が落ち着くのを待つ余裕など持てそうに無いくらいだった。

「なんだよこれ!」

「だあいじょうぶ。また撫でたら元に戻るよお。さっ、これで狭間も見つけやすくなったし、行こうかあ」

「秋太怖いの?大丈夫だよ!狐の目でも秋太かっこいいよ!」

「うるせえよ…」

まるで空気の読まない鹿へ吐き捨てるように言うとフクロウはみのるが持っている鏡を取り返してまたポケットに仕舞いながら、その可愛らしい顔が秋太の顔を覗き込むように近づき、フクロウとの顔の距離が数センチしか無いくらいになったあたりでじいっと秋太の目を見つめたあと、ようやく離れて両手を腰にあてた。
息のかかる距離で見つめられて思わず呼吸を止めていた秋太は、ようやく酸素を吸い込んでは吐き出しを繰り返す。
そうしてにっこり笑ったフクロウに少なからずどきっとしたのは、さっきから驚いてばかりいる所為では無いだろう。

「わたしの目と同じ色ね」

「俺ともおんなじい」

「…あー、ハイハイ」

みのるが折角のいい気分をぶちこわしてくれたおかげでまたあの狭間へと向かう決心がついた秋太は、狭間の切れ目へ手を伸ばしてゆっくりと進む。
見る限りでは飲み込まれるように見えるのだが、実際には劇場や体育館にあるステージの幕の間をすり抜ける感覚に似ている。
体全部が狭間へ入ったら、風景こそは今までいた神社の境内そのものなのだが、やはり生物がいるような空気では無く、まるで風景が四方に描かれた部屋の中にいるようだ。
秋太の後に続いてみのるたちも入ってきて自分以外にも生き物がいるのだとようやく安心できる。
彼らの場合、そんな秋太の気持ちを察してなのか、ただ単におもしろ半分なのかはわからないが。
そんな事を思いながら入ってきた狭間の切れ目を見るとどんどん入り口が小さくなっている。
慌てて手を伸ばしたが切れ目は小さくなりやがて消えてしまい、出口がふさがってしまった。



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