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「そんなものの練習をしてるの?」
「俺には結構な重労働なの!」
「西崎くんはどうやって行き来してたんだろうねえ?」
「あの、葉っぱのお面がバイタイ?なんだってさ」
「なるほどねー。あの子力あるもんね!」
感心して鹿が頷いていると秋太は眉間にしわを寄せて考え込む。
ややしばらく考えていたのかやがて顔をあげて真剣なまなざしでフクロウへ訪ねる。
「バイタイって何?」
「馬鹿なのにわからない言葉使わないで欲しいわね」
「馬鹿って言うな馬鹿って」
心底呆れてフクロウが言うと秋太は更に不機嫌そうに言った。
西崎が言っていた媒体を利用すれば秋太も同じように楽に狭間の切れ目を探すことが出来ると喜んだのだが、これはあくまで『西崎のやり方』であって
秋太には向かないものだと判明した時は文字通り体の力が抜けた。
今のところ母が教えてくれた自分が感じる気配を頼りに切れ目を探すしかないようで
今日はせっかくの貴重な休日ではあったが秋太はより早く切れ目探しを習得しようと
神社の境内に来ていた。
一人でこっそり特訓の予定だったがあれよあれよと言う間に狐、鹿、最後にはフクロウまでもが表れて特訓が特訓のようでただの冷やかしに変わっている気もしたが、
3人(?)がいれば母とは別なアドバイスが貰えるのではと秋太は、まず目を懲らすことから始める。
「そう言えば、さっき鷹が騒いでいたねえ?」
「そうだわ、ちょっと鹿!」
「えっ、なに?」
急に思い出したようにフクロウがキッと鹿を睨み付けたので鹿は怯えた子鹿のように
肩をふるわせた。
実際には成獣だが。
「あんた鷹に余計なもの見せたわね!バレンタインがどうとか!」
「ああ!あれは鷹が勝手に持って行ったんだよ!俺だって被害者だ!」
「ちょっとあんたら静かにしてくんね?集中出来ないんですけど」
折角集中して練習していると言うのに本気で邪魔しに来ただけなのではないかと秋太は獣たちに軽蔑の眼差しを向けたが賽銭箱の前でぎゃあぎゃあと騒いでいる三人は
人の言葉など耳に入らないのか秋太の言葉などほとんど無視して騒ぎ続けた。
「あんたが余計なことした所為で私が追いかけられたんだからね、大体バレンタインはまだ季節じゃないでしょう!」
「でもあのちょこれいとって美味しいねえ。この間けえきを食べたけど凄く…」
「いいなー!俺も今度食べたい!」
「秋太の家の近所にねえ、けえき屋さんがあるんだよ。そこのが美味しいんだあ」
「みのる〜連れて行って!」
「だから!!うるせー!!!!」
「化け狐の息子なんだから、『狐の目』を使いなさいよ。それから鹿。お前はあとで覚えておきなさい」
いよいよ秋太が怒り出したところでフクロウが助け船を出した。
どちらがついでかわからないがしっかりと鹿へ釘を刺すことも忘れておらず、あとでの言葉に鹿はまた子鹿のように震え上がった。
成獣だが。
「その化け狐の息子ヤメロ…」
「嫌味で言ってるんじゃあないよお。化け狐は普通の狐よりも力があるから本当は他の動物よりもうんと狭間を見つけやすいんだ」
「大体、切れ目なんて見えると本気で思っていないのよ。みのる。狐の目を教えてやりなさい」
「ええ〜それは自分でやらせるって春子さんがあ」
みのるが面倒くさそうに言ったところでフクロウが大きな目を半分まで細めると
みのるはしぶしぶと言った様子ではあい、と小さく返事をした。
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