「まだくたばって無かったんですか」

『憎まれ口しかたたけないのかい、アンタは』

ああ、これこれ。
なんだろう、漫画とか、アニメとかでありそうな…。
狐だから自分よりも小さいのを想像していたら見事に裏切られた。
空間よりも丁度2周りくらい小さい、けれど自分よりも大きな白く光る狐が目の前でその大きな口をもごもごと動かしている。
ちゃんとひげもあるし、鼻は黒く湿っていて近所の犬を思い出させる。
大きくとんがった耳が時々素早く動き色んな音を拾っているのだろう。

『ああ、これがお前の息子?』

「もう一人いるんですけどね。そっちは人間の血の方が濃いようなので」

『お前、名は?』

「おっ…えっ…」

『母親と違って度胸はないようだね。結構、結構』

突然に話しかけられて秋太は言葉が詰まってしまった。
それを見て目の前の大きな狐はフフフッと笑った。
なにが結構な事なのかさっぱりわからなかった秋太は度胸がないと言われ、顔を赤くする。

『それじゃあ、明日、お前の元に私の使いをやろう。その者に色々教えて貰うといい』

「あらっ今日はいいの?」

『引っ越しの片付けで忙しいだろう。冬夜も困っているだろうさ』

「だって。じゃあ帰ろう秋太」

「うん」

冬夜と言うのは父親の名前でまた上手い事に両親は自分たちに季節の混じった名前を付けた。
もしもう一人生まれたならどうするつもりだったのだろうとふと考えた秋太だったが大きな口を吊り上げて笑う狐を目の前にして軽く首を横に振った。
まるで自分が考えている事が見透かされているような気分になってくる。
母親に急かされつつも秋太はもと来た道を辿ってまた明るい日の下へ帰ってくると不意に大きく溜息をついた。
自分では意識していなかったがよっぽどに緊張していたらしく今頃になって太ももの筋肉に痛みが走った。

「…あんなのがこんな所にいるなんて」

「隣町には狸がいるわよ。反対の町には鹿とふくろう」

「マジで?!」

あの大きくて奇妙(?)な狐と似たような狸だの鹿だのふくろうなど……
考えただけでもゾッとしてきて頼りない自分の腕をさすると母親はそれを見てくすくすと笑う。

「…何」

「あんたもねーもうちょっとがっしりした体なら彼女の一人や二人いるかもねー」

「うっせ」

「うるさいとはなんだ、教育的指導!」

「いてっ!」

肩の骨を思いっきり殴られた。

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