10

「あんた、センス無いわねえ〜…」

「…うるせ…」



遡ること一時間。
放課後、母親の春子の言葉通り秋太は長い石段を登って神社までやってきた。
初めて来た時は途中で息が切れていたのに今では登り切ったところで息が切れるようになっていた。
毎日登っていれば体力もつくものだと自分自身に感心しながら母の姿を探す。
春子はいつかの秋太と同じように賽銭箱の横にちょこんと座って待っていた。

「おつかれー」

「なんか用?」

「狭間の行き来の練習するんでしょう。人がせっかく…」

「…あれって夢じゃなかったの?」

「夢じゃない?私も見たし」

「同じ夢?」

「さあ?あんたがなんの夢見たかお母さん知らないし。まあ始めますか」

春子は、意外にも学校の先生よりもとても丁寧にやり方を教えてくれた。
秋太の前に立った春子が何も無いところを指さしてこのあたりに切れ目があり、
そこに手をねじ込むだけでいいのだと言う。
小さい頃に算数の宿題を手伝ってもらった時はまるで話にならなかったと言うのに、
文字通り手取り足取り指導してくれる。
今の状況から思えば恐らく母は人間の学問がわからなかったのではないのかと秋太は考えた。
そうすれば簡単な数の計算程度しかできない母の知能が理解できる。
しかし全く言葉通り雲を掴むような話で春子が指さすところが何も無い…と言うか何かの物質があるわけでもなく、虫すらも飛んでいないようなところなので手をねじ込めと言われても秋太には見当すらつかない。
困っていると春子が秋太の手首を掴み切れ目へ誘導してやると指先からあの時の
寒気のするような感覚がして一気に全身に鳥肌が立った。

「わかった?」

「…わかった…」

「…あんた怖いの?」

「気持ち悪いじゃん。寒気しない?」

「私たちはそういう感覚無いんだけど………人間ってそうなのかしらね」

春子が不思議そうに言った。

「でも西崎はそういうの無いって言ってた」

「ふーん、じゃああんたがビビリってだけなのね。頑張れ」

「うるせえよ!」

すぐさまげんこつが頭に飛んできたところでまずはその切れ目を探せるようになるための訓練をする事にした。
切れ目は普通の人間には絶対に見えないが狐混じりの秋太ならば目が慣れさえすれば簡単に探し出せるが、あくまで混じりである故に多少の訓練を必要とするようだ。
切れ目が見えたならあとは文字通り手を突っ込めばいいだけなので狐だけではなく、獣たちには朝飯前と言うことだった。
コツとしては、空間が不自然に歪んでいるところを探すらしいが何も無いところを一点集中して見続けると言うのは結構目に負担がかかる。
眉間にしわがよって次第には目が乾いてきて頭痛までしてくる始末だ。
これをかれこれ1時間も続ければ疲れも出てくる。

「あんた、センス無いわねえ〜…まだ見つけられないの?」

「…うるせ…」

「あんたは案外その『寒気』を利用した方が見つけやすいかもしれないわね」

「え?」

「ちょっとその辺歩いてみなさい」

母の指示通りに神社の境内を行ったり来たりを繰り返しながら時折右に寄れだの、左を向けだの言われ秋太はあても無く歩く。
すると時々体の一部が急に寒くなってその場所にいたくないと感じた時に春子が声をあげてそこだと指さした。
秋太がじーっと目を懲らすと景色が微妙に歪んでいる。
恐る恐る手を伸ばせば全身に鳥肌が立って手の先だけが透明になったかのように消えていた。







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