部屋から人が出て行く気配がして秋太はベッドから飛び起きた。
いつもならけたたましく鳴って起こしてくれる携帯のアラームがなぜか止まっている。
無意識のうちに止めてしまって二度寝したのか、それとももともとアラームが作動しなかったのか、どちらでもいいが時計は確かに母親が言うように遅刻しそうな時刻を指していた。
 
(…私が教える?)

さっきのは夢の話ではないのだろうか?
母親がどうしてその答えをするのか訪ねようにも時間が時間だった。
大慌てで制服を着て身支度を調えて朝食もそこそこに慌ただしく家を出ようとしたら力一杯制服の襟首を捕まれた。

「ちょ、遅刻!」

「わかってるわよ。遅刻ぐらい。これ朝ご飯。弁当。あと学校終わったらまっすぐ神社に来なさい。私が教えてあげるから」

「なに…」

「さっきのやつが言ってた狭間の行き方よ」

どうして、と問いただしたかったがそれだけ言うと母親はぐいぐいと秋太の背中を押しやって玄関をバタリと締め切ってしまった。
みのるもそうだが母親も少し強引なところがある。
父親がおっとりしている所為で母親がきびきびと動くようになったのかもともとの性格なのかは昔の彼女を知らない秋太にとっては知るよしも無いことだった。
仕方なしに朝食だと渡された栄養補助食品を一気に口に流し込みながら学校へと向かった。
さすがにこの時間帯は歩いている生徒はほとんど見当たらず、いるとすればまだこんなところをうろついている秋太を不思議そうに見届けるあたりの住人ぐらいだ。
時々にやにやされるので遅刻がばれているのだろうと思うと少し恥ずかしい。
ようやく学校へ着いた頃にはほぼ遅刻確定だった。
ひとまず職員室へ行き遅刻届を書いて職員室にいた先生に小言の2,3を言われてから一時間目の授業へと臨んだ。
教室に入るのが少し恥ずかしく、案の定、クラスメイトにはしっかり冷やかされた。

(あの夢の所為だ…)

まだクスクスと笑い声が聞こえる中で鞄から教科書を取り出した秋太は、
ついでにと他の教科のものも一緒に机の中に突っ込んだ。
それから今日1日は遅刻した反省として居眠りはしないようにしようと心の中で強く誓った。
とは言え授業が退屈なのには代わり無く、うつらうつらと船をこぎながら
黒板と真っ白のノートを交互に見やって先生が文字を書き出してから同じようにノートに文字を書き写す。
それだけが唯一の眠気覚ましとなっていた。
遅刻したと言うのにやたらと長く感じた授業が終わりを迎え、終了のチャイムが鳴った途端に隣の西崎が神妙な面持ちで話しかけてきた。

「ねえ、秋太。俺今日不思議な夢を見たんだ」

「夢?」

秋太は自分も見たにもかかわらずだるそうにして西崎の言葉に返事をした。

「姿も見えない誰かが俺に地の気を静める術を覚えろって。」

「ナニソレ」

「よくわからないけど…今日学校が終わったら狸に聞いてみようと思って」

「ふーん…あ。俺も今日まっすぐ神社行かなきゃなんねえんだ」

「みのる?」

「ううん。かーさん」

「境内の掃除の手伝いとか?」

「さあ。たぶんそんなとこじゃねえ?」

秋太は眠気を飛ばそうと大きくあくびをして曖昧に返事をした。
西崎も深くは追求してこなかったので二人は次の授業の準備をしながらまた他愛のない話を始めたのだった。



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