「あれは死神。生物の魂を吸うものだよ。誰かが秋太を狙うように差し向けたようだ」

「誰が」

「今ソレをフクロウに聞きに行ってもらっている」

「…弟もってあいつ言ってたぞ」

今思い出しただけでもぞっとする。
その時は、あの子供に気圧されないようにとただただ必死で相手の言葉におびえる暇も無かった。
何より恐ろしいと感じたのは何も知らない弟もあの子供の対象になっていると言うことだ。
大狐のいる神社はいつもと変わらずに静かで風の音しかしていない。
神社の社に続く石畳と、賽銭箱の横にそれぞれ腰掛けたがみのるは立ったまま座ろうとはしなかった。

「それも対策する。まあ弟くんの方はきっと春子さんが見ていてくれるから…それよりも秋太の方が問題だ」

「なんで俺?」

「君のねえ、その意思疎通の能力って結構貴重なんだよ。言葉もそうだけど意識だけでも相手に飛ばせるから。だから山の神の対話役に選ばれた」

時々みのるの口調がいつもの調子に戻るのが不思議と『もう安全なのだ』と告げられているような気がした。
西崎は相変わらず青白い表情で秋太を見つめていて自分の事のように怯えている。
代わりと言ってはおかしいが彼が弱っているのでなんとなく自分だけは気を強く持たねばと握り拳を作る。

「それじゃあまるで俺と山の神様が話し合いするのがまずいみたいじゃねえの」

「うん。俺たちがやろうとしてるのは山のすべての存続だから、死神勢には邪魔なのかもしれない。死を司る神達だから」

秋太は、狐の言葉を復唱して足下に視線を落とす。
よりかかった賽銭箱が木で作られていてかび臭いような苔くさいような独特の臭いが鼻をつく。
あの死神が放った言葉が旨の奥につっかえていてもっと、奥の奥の方に落ちていってくれない。

「獣が俺を利用してるって」

「まあ、言葉で言うならそうなるかもねえ。でもそれって気持ちの問題だろう?
お主さまや狸たちはどう思っているかわからないけど、俺は。絶対に違う」

「なんで言い切れる」

「俺もそうだけど、鹿なんて特にずっと昔に助けられてから君にご執心だよ。フクロウは…それでもあの子も君が好きだと思う。俺も君が好きだ」

「…えっ」

表情を引きつらせて後ずさるとみのるがにんまりと笑って一歩ずつ近づいてくる。
それに併せて逃げるように体を後ろに引くのを数回繰り返すとだんだんと横から西崎の含み笑いが聞こえてきたが地面を蹴ったみのるが勢いよく抱きついた途端に
それは大笑いに変わった。

「大好きだよお!!秋太くううん!」

「ぎゃああもう放せ暑苦しい!!」

「あはははははっ!」

「…何してるのお前達」



フクロウが呆れた様子で大狐のいる洞穴から出てきた。
それから1分も経たないうちに鹿も戻ってきたがじゃれ合ってる二人を見て
地ならししていた。


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