少女には光など必要は無く、暗い道をまっすぐに歩き続ける。
やがて開けた場所へでるとそこには大きな口の大きな狐が一匹、現れた少女をまるで待ち構えていたと言いたげにじいっと見つめながら座っている。
大きなしっぽをゆらりと揺らしたかと思うとどこからともなく声がした。
声は男とも女ともとれないような音で耳の奥に響く。
フクロウは薄く目を細めて金色の瞳を狐に向けた。

「最初に、生け贄だと言ったわね」

『そうだったか』

「私は怒っているのよ。黙って質問にだけ答えなさい」

フクロウが声を強くして言い放つと狐は、言う通りに押し黙った。
腕組みをして大きな獣を見上げた少女は、なるべく努めて冷静に続けた。

「あれは死神ね。お前が差し向けたの?山の神が降りる場所はあの子のところだって言っていたじゃないの。お前は確かに秋太を生け贄と言ったけれど、あれは言葉の『あや』で実際は秋太に神と話をさせると」

『死神は私の知らない事だ。誰かが送って寄越した』

「それを信じろと言う根拠は」

『みのるが知っている。私も真実は知らない。ここからは見えない。みのるが知っている』

しばらく狐を睨み付けてからフクロウは深くため息を吐いた。
当初の話とは違う問題が起こった原因をこの大きな狐は知っているはずなのに、その理由をみのるに尋ねろの一点張りで通すのだ。
この神社の守である大狐がその問題に対してさらさら動く気が無いのにもフクロウはすっかり呆れてしまった。

「…埒があかないわ。獣がここまで老いたなんてね。もしかして古狸と大アナグマも同じ答えなのかしら」

『叡智の神が知らないはずはないだろうから念を押すが、計画については他言願うぞ』

「わかってるわよ。私の問題でもあるんだから」

『…みのるは本当に頭がいい。フクロウを私の元に寄越すのだから』

顔を顰めてへらへらした顔を思い浮かべればなおさらに腹が立つ。
この主にしてあの使いありと言ったところだろうか。
仮に鹿がここを訪れたとしたなら恐らくこの狐に丸め込まれてハイハイと返事をしてのこのこ戻ってくるのが落ちだったろう、みのるがここに来たとしても彼はこの大狐には逆らえない。
唯一あの場所にいて、状況を把握し、このふざけた神社守に対抗できると言えばフクロウ以外にはいなかった。
それを瞬時に悟ったのが他ならぬみのるである。

「あれは小癪なのよ。自分の使いでしょう。手に余してどうするのよ」

『時々出るんだ。狐の中でも優秀なのが』

「あれが優秀なんて言うのなら狐も落ちたわね。秋太の弟に護衛をつけて。秋太は私たちが守るわ」

『死神は生を吸う。人だろうと、獣だろうと』

「その為に鹿がいるんじゃあないの。いい、秋太を犠牲にしようと思っているのならその考えを改めなさい」




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