みのるが走り出してあの足下に渦巻いていた闇を踏みつけると一瞬で墨のように飛び散って消えていった。
そのまま子供へと向かってくるみのるから逃れるように子供は一歩後ろへ下がると体の色がだんだんと薄くなっていって先ほどの闇のようにまるで透明人間になったかのように消えて無くなった。
子供がいた場所で立ち止まるみのるの大きなしっぽが左右ひらりと揺れた。

「けがは?」

「ない……です…」

「西崎君巻き込んでごめん。狸には俺から言っておくから」

「えっあ、はい」

「フクロウ、悪いけど主様に言付けを頼まれてくれないか。鹿は後処理を」

フクロウと鹿はいつものようにああだこうだと文句も言わず二つ返事で承諾する。
いつもののんびりとした何を考えているのかもわからないみのるとは違い、てきぱきと指示を出すので秋太も西崎も呆気にとられたままいすに座ってぼーっとそれを眺めていた。
店を出て行ったフクロウと残って真っ黒だったを踏みならしている鹿と、食べかけのかき氷を見つめて腕組みをしたまま黙り込んでいる狐の三人が現れたからなのか、
それとも先ほどまでの話し声を聞いていたからなのか店主がようやく家の奥から姿を現した。
店主は、人が増えたなあとぽつりと呟くだけでさほど不思議がる様子は見せなかった。

「おじいちゃん。ここには子供がよくくる?」

「子供?お前たちくらいかなあ」

いやあ、と首を横に振りながら店主が答えると狐は短く礼をして秋太に向き直る。
確実に何かを知っている風の狐から状況の説明をしてもらうのと、あの子供が言っていた獣に使われていると言う言葉の真意を問うてやろうと秋太も唇をきつく結んで黒髪の少年を見上げた。
黄色のとんがった耳がぴくりと動いたがすぐにまたまっすぐに伸びてそれからは風が吹いたりしなければ動くことはなかった。

「神社に行こう。西崎君もおいで。君にも説明する必要があるだろうから」

「うん」

「なんだ帰るのか?」

「じいちゃんありがとう、かき氷美味しかったよ」

まだ半分も残っているかき氷二人分を少し申し訳なさそうに返却して
代金を渡すと店主もそれに気がついたのか隙間のある歯を見せてまた来いよと言いながらにっこりと笑ってくれた。
もともとここが気に入っていたからまた来る予定ではいたが、しばらくの間は通い詰めようと心に決めた秋太だった。
ほんわりとした気分になったのもつかの間、みのるが慌ただしく秋太の手を引いて店を出るので、西崎が慌ててその後を追う。
後処理を言いつかった鹿が未だに真っ黒だった地面を踏みならしていたがすでに地面には黒いものはどこにも残っておらず、不思議な行動をする青年を見て店主が首をかしげる。

「あんた、何してるんだ」

「んー?魔除け」

「魔除け?」

「そう。魔除け。だから秋太がまたここに来たらおじいちゃん、秋太を守ってね」

にこりと笑った青年に店主は不思議とただただ頷くしかできなかった。








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