「お前の弟も異端。この山にいるのはお前たちだけだから早急に排除するべきであるもの」

「しゃべる動物は異端じゃないのか」

「言語はただ単に障壁がなくなっただけ。意思の疎通は言葉なくしてもできるもの」

「変化は」

「あれはただの目くらまし。脳へ映像を直接送り込んでいるだけで実際に変化しているわけではない」

一つ問いかければとんと返ってきて、また一つ問いかければとんと返る。
言われてみればそんな気がしてきて秋太は、急に寂しさを覚えるようになった。
子供の言う通り、考えれば考えるほど、自分と弟は完全な人間でも完全な獣でもなかった。
中途半端などっちつかずの狭間の生き物。
力なく目を伏せて小さな声でまた訪ねれば子供が先ほどと同じ言葉を繰り返してきた。

「つまり俺と弟を殺すって事か」

「異端は排除するべきもの」

たまらずに西崎が口を挟む。

「排除ってなんですか」

「たとえばお前の記憶から、視界から、聴覚から、触覚から、嗅覚から消すこと」

「たとえばって、それ以外もあんのかよ」

「狭間に戻す」

「狭間に?」

「孵す」

「俺、もともと狭間にいたわけ?」

「狭間で彷徨っていた魂だから。誰かが故意にお前たちをひっぱりだした」

「誰かがって誰が」

「わからない」

「神でもわかんねーのかよ」

子供がにいと気味悪く口の端をつり上げる。
ふと足下から暗闇が押し寄せてる気がして秋太と西崎は、慌ててあたりを見渡したが
景色はしっかりと横山商店の中なのだ。
けれど足下だけが黒く歪んで床としても役目を果たしていないようだった。
立っている感覚はあるがそこには立っていないような不思議な感覚である。

「私を神と認識した時点でお前たちの愚かしさがよくわかる」

ふと秋太は、この黒い闇の中が狭間なのだと瞬時に悟った。
西崎はそれには気がついていないのか秋太の手をつかんで必死にそこからでようともがいている。
それなのに秋太自身はどう言うわけかこのうねる闇の中から出たいとは思えなかった。
力なくそこに立ったまま西崎さえここから出られれば自分その中に飲み込まれてしまってもいいような気分になる。
異端と言われ、言われるまでずっと否定していた言葉だけに面と向かって言われて気がついてしまったのかもしれない。

やはり生きているべきではないのではないかと。

「秋太!!」

力一杯に体を引かれ、捕らえていたものが無くなると足下の闇がぐねぐねとねじれて何かを探しているように見える。
ぼおっとそれを眺めていたら後ろから抱きすくめられるように無理矢理に立たされた。

「大丈夫!?秋太!!」

「どぅあっ!?」

「西崎、平気?」

「うん、ありがとう…」

「それでぇ。俺の大事な後輩に何してたの」

「さすがは狐。嗅ぎ回るのが早いな」

「何をしてたと聞いている」

「別に足をもがれたわけじゃないのだから穏便に済ませなさいよね?」

「フクロウだって俺たちをここまで連れてきたくせに」

「うるさいわよ。その角もがれたいの?」

「怖い」

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