「冷たい!!」

「うまいだろ」

「こんな冷たいもの初めて食べた」

「ええ?今までかき氷とか食ったことねえの?」

不思議な子供もいるものだと秋太は、もう一すくい、少年に促すと
少年は頷きながらまた一口口に運んでその冷たさに身を震わせる。

「氷ができるのは冬と決まっている」

「かーさんに氷作ってもらえよ」

「秋太、ちょっと……」

なんだよ、と西崎の方を向くと彼は真っ青になりながら秋太の腕をひっぱっている。
あまりにも蒼白なのでぎょっとした秋太は、また彼が双子の兄に命を注いでいるのだろうかと思ったが、依然感じた『薄くなる』感覚がないので
ただ単に西崎がもっと別の事に驚いているのだとわかった。

「なまじ、こちらの側に近い人間は勘がいいな。
意識してこさえた事がないが、我々に近いと『気』にでも当てられるのだろうか」

「は?」

「この、この子…人じゃないよ」

「は?!なに、幽霊!?」

「もしかして、山の神じゃあ」

西崎の言葉に秋太は慌ててポケットから携帯を取り出した。
ストラップもついていない飾り気のない携帯にはほんの少し傷がついている。

「まじで!じゃあ今のうちに頼んでおけばいいんじゃ…あっ、ジーナに連絡…」

「頼む?」

「うん。なんか森が大変だから?お前の力が必要だってさ。詳しいことわかんねーからさ、みのる達に直接会ってもらった方が」

「獣たちにいいように使われているのか、人間が」

眉間にしわを寄せ、二人がどう言う意味だと聞き返すと子供は、秋太が持っていたかき氷を眺めながらさっきまでとは違う表情で淡々と答えだした。

「まあ、狐と狸は元来人を化かすように造られたものだから行動に間違いがあるわけではないが」

「使われているってどういう意味ですか」

「その言葉の通りだ。人はいつでも愚かしい。愛おしいな」

「…もしかして今馬鹿にされてんの?俺」

「ちょっ…秋太!」

西崎は慌てて少し声を低くした秋太を諫めたが高校生に睨まれている子供は
腹を立てるでもなくスッと自分の小さな可愛らしい手を二人の前に掲げる。
真っ白な手はこの季節にはまるで似合わずに違和感を感じさせる。
気がつけばあんなにうるさく鳴いていた蝉たちの鳴き声がぴたりと止んでいた。

「生も死も心一つ気一つ。たとえば狐の首をつかめば生を吸う。お前は人とも狐ともとられない狭間にいる。狭間にいて揺れ動くから、うまく掴めない」

「何言ってんだよ意味わかんねえ」

「『うまく掴めない』だけで『掴めない』わけではない。狐よりも異端はお前なのだから、狐をつかっておびき寄せればいい」

「それって」

秋太は、瞬時に背中に寒気が走った。
おびき寄せるとはどう言うことだろう。
狐はこの子供に会ったのだろうか、なにか言われて自分のところへ姿を現したのだろうか。



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