子供が、裸足のままアスファルトを踏みしめる。
つま先からそっと温かい石板へ乗せてかかとをしっかりとつけると
ざらざらした感覚が足裏に広がった。
体重をかけると時々小石が刺さって痛みが走ったが山の地面よりも
体のバランスがとりやすい。
しゃがんで、指で触れてみると太陽の熱を吸収していてやはり温かかった。
けれど、生きている心地がしない。
子供は、立ち上がって地面を暫く見下ろしていたがやがて人々が住んでいる町の方へと歩き出した。


その頃秋太の教室では中間テストの真っ最中で、ほんのり暑さの感じる気温の中、
生徒たちが机の上に乗せられたたった一枚の紙切れに悪戦苦闘を繰り返している。
ごくまれに涼しい顔で時間の経過を待っているものもいたが彼の回答が途中から一つずつずれているのが判明するのは、数学教師が彼の答案を採点する頃だろう。
やがて時間も過ぎ、チャイムが鳴ったとたんに紙の音やら制服の音、生徒たちが息を吐く音が一斉になりだす。
教団へ集められたテスト用紙は先生がしっかりと全員分の枚数があるかどうか確認された上で職員室へと運ばれていった。

「もう、俺は、終わった」

「…あんなに勉強したのに?」

「なんか頭が真っ白になった。合ってる気がしない」

「秋太って本番に弱いタイプなの?」

「わっかんね」

「やああ〜ご苦労」

「「今頃!」」

テストが始まる直前に俺は屋上で昼寝をすると宣言して、その言葉通り
屋上へ行ってしまったのがこの狐のみのるである。
本当に昼寝をしていたのかとてもすっきりした表情で二人に近づいてきたので
秋太と西崎は眉間にしわを寄せて非難の目で睨んだ。

「今日は昼寝には最高の日だよお」

「しらねーよ俺はもうお前と話したくない」

「そんなあ」

しょげた声を出すもそれが態度の方に一切反映されていないので二人はあきれて溜息を吐くしかなかった。

「テストも終わったことだし、今日は暑いし。アイスでも食って帰るか…」

「どうして俺がお使いの時ばっかり!!」

「テスト受けてないんだからいいだろ」

「大主さまのお使い頑張れ」

「ううう〜」

この日はテストが終わり次第、教員たちが会議をするらしく、すぐに放課になった。
テストが終わった解放感と、いつもよりも早く帰宅できるうれしさはひとしおで、秋太と西崎は目に見えて後ろ髪を引かれているみのるがちらちらと何度も振り返っているのも気にせず、さっさと神社とは反対方向にあるコンビニへ向かう。
ところが二人はクーラーの効いたコンビニには入らず、その隣に隣接する小さな商店へ入って行った。
店は構えから見て取れるようにこじんまりとしていて、数列しかない棚に陳列された商品も時々時代を感じるくらいだ。
いつの品だと尋ねたらちゃんと新品なのだと店主が答えたので確認してみると日付はしっかりと新しかったから驚きだ。
そんな店の奥には小さなおじいさんがレジの横に座って堂々と商品であろうかき氷を頬張っている。

「おじさん、俺いちごミルク」

「じゃあ俺はいちごだけ」

「学校終わったのか、早いな」

「今日テストだった。横山に聞いてないの?」

「そうだったかあ…」

横山商店の店主である老人は、のそのそと立ち上がると手動で氷を削るかき氷器へ大きな氷を入れてゆっくり削り始めた。
ガリガリシャリシャリと音を立てて削られていく氷を二人がぼーっと見つめていると一人の少年が店の中へ入ってきた。
見たところ少年のようなのだが女の子が着るワンピースのようなものを身に着けていて、髪も歳を考えても少し長く感じられる。
最近は女の子の恰好を好んでする子が増えていると以前テレビのニュースで流れていたのを思い出して特に問うこともなく秋太は近寄ってくる少年の行動を観察していた。

「はい、いちごとブルーハワイ」

「いや、おじさん俺いちごミルクって言った」

「おんなじもの頼むんじゃねえ、どうせなら違うの食え」

「ええ〜…」

「それ、おいしいのか?」

「え?うん。まあまずくはないけど…食う?」

青と赤のシロップがそれぞれ乗っかったかき氷をテーブルに置いて老人はさっさと店の奥へ引っ込んだ。
商品の代金はいつも食器を返す際に渡すので食べ終わったら呼ぶシステムになっている。
少年がもの珍しそうにかき氷を見つめて秋太が差し出したスプーンを受け取ると
一すくい、口の中へ運んだ。


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