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「なに、この階段…」
「若いのにもう疲れたの?」
呆れたような母親の声を聞きながら秋太は肩で息をしながらなんとか心臓の動悸を抑えようと努力した。
今まで経験したことの無い数の階段を上りきった自分を褒めてやりたいところだが今はまだこれで終わりではないのだ。
「こっち」
「うん…ってあれ?神社じゃねえの?」
「この裏の洞窟が入り口」
「入り口?」
古いが手入れのされている神社の周りを歩き、その裏側に進むと人一人が歩けるような細い小道が続いている。
大きな木がそびえ立ってひんやりとした空気を感じながら秋太は辺りを見渡しつつ母親の背中についていく。
10分も歩いた頃、目の前にぽっかりと空いた黒い穴が現れて母親が立ち止まった。
「ここ」
「ふうん…」
覗き込んでみれば真っ暗でなにも見えず、懐中電灯の一つでも持ってくればよかったかもしれないと秋太は思った。
けれどもそんな息子の心配も余所に母はさっさと洞窟の中へ姿を消してしまった。
「ちょっ、暗くね?!」
「何言ってんの。あんた見えるでしょう」
「そんな見えるわけ……あれ?」
ずっと暗闇を見ていたからだろうか、だんだんと洞窟の中の色が見えてきて、次第に足下に道がある事まではっきりとわかった。
もともと猫目だとは思っていたがここまで見えると少し怖い。
暫く歩くと開けた空間に辿り着き、秋太は思わず口を開けて辺りを見渡した。
『あら、本当に帰ってきたのね』
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