「ふうん、ムジナとも会ったの」

「うん。びっくりした。まさかモデルやってるなんて思ってなかった…それ寄越せよ」

「もともとアナグマは体が長いから丁度いいんでしょう、はい」

人が丁度二人ならんで歩けるくらいのスペースに秋太とフクロウは互いに数冊の本を抱えてそれらを本棚に押し込んでいく。
この学校では委員会への加入が必須でクラスから2〜3名を各委員会に振り分けられて構成される。
秋太はなるべく楽で面倒じゃないと耳にした図書委員を選んだがこれがまたどうして面倒くさい仕事ことばかりであった。
とは言えほかの委員会は、やれ健康の啓発やら、体育の準備やらとそれはそれで面倒で結局消去法でこの図書委員が一番楽だったのである。
当番は委員会の会議の時に振り分けられクラスから1名ずつその日の当番を務めるがたまたま今日はフクロウと一緒だったらしく、準備室に山のように積み上げられていた本を整理する羽目になった。
なぜ山のように積み上げられていたかと言えば返却された本を、ほかの当番の生徒が仕事をすっぽかしてそのままにしていたからだ。
放課後と言えば誰でもさっさと帰って友達と寄り道なんかして遊びたいものなんだなと
気持ちは理解できたがそのしわ寄せが自分たちに来るのは少し納得がいかない。

「モリタサン、そう言えば下の名前なんて言うの?」

「気持ち悪いわね何よ?」

「いや、みのるはちゃんとみのるって名前があるし。まさかフクロウって名前じゃねぇだろ?」

「チカ」

「チカ?ふーん」

チカと名乗ったフクロウはそっけなく答えると最後に抱えていた一冊の本をゆっくりと押し込めた。
秋太は、手の届かない一番上の段へ本をしまうため、小さな脚立に足をかけたところだった。

「変?」

「なにが」

「名前よ」

「いや、普通じゃね…?」

「……ふつうなの」

「うん……なに?」

「……別に。これもそこにしまって」

もっていた最後の一冊を少し乱暴に渡してフクロウは、
まだまだつみあがっている本の山へ向かって行った。
別段気にせずに秋太は手渡された本を本棚の隙間に差し込みかけたが、不意に背表紙の文字が気になってその手を止めた。
さほど厚みはないものの、明らかに秋太が興味を示す分野とはかけ離れているがそこには『アイヌの神梟〜カムイチカップ〜』と表記されている。
なじみのない土地の伝説をまとめたような本らしくフクロウの神様が出てくる物語らしいがその名前を心の中で呟いてああ、と秋太は自分の身長よりも高く積みあがった本を一冊一冊一生懸命崩していくフクロウの背中に視線を移した。
その一生懸命な華奢な背中が、人間の書物から一生懸命調べて自分の名前を抜き出したのかと思うと少しおかしかったがそれでも彼女は真剣だったのだろう。
それを『普通』の一言で終わらせてしまった秋太に納得いかなくて。

(拗ねてんのかあれは)

丁寧に本を隙間に埋め込んで脚立からゆっくり降りると脚立がギシギシ軋んだ。
よく見たらネジの部分がさびていてこれは壊れるのも時間の問題だと思った。

「フクロウ、次どの山崩すの?」

「…名前を聞いておいてそれで呼ぶの?」

「だってもともと名前で呼ぶ習慣ねぇし」

「じゃあ聞かないでよ」

「チカってアノ本からとったの?」

「そうよ。適当にね」

「いい名前だよ」

「気持ち悪い」

フクロウは秋太の言葉を一蹴してつんと顔を背け、あらかた抱えた数冊の本をまた本棚へ運んでいく。
しばらくこの繰り返しを続けていかなければないのかと思うと秋太は、顧問の先生にでも荷台を借りた方がよさそうだと考えた。
いくら若いからとはいえ、軽い本だけならばいいが重い本も勿論運ばなければいけないので女子への負担が大きすぎるのだ。
暴言を吐かれた秋太はため息を吐きながらもまたフクロウと同じように本を抱えて同じ本棚へ向かった。
ただしフクロウが持っている本よりは大目に、重たい本を抱えている。

「折角ほめたのに…ありがとうでいいじゃん」

「最近狐に似てきたんじゃないの?」

「みのる?」

「アレは口が上手いのよ。もともと口が上手いのは狐の特徴だけれど」

「ふーん。でも俺がほめたのはみのるのとは違う」

「そう、じゃあありがとう」

「フクロウってクラスにいてもそんな感じなの?」

フクロウは、背表紙を指でなぞりながらゆっくり秋太の方へ振り向く。
そうして、頬がピンクになったかと思うと少しはにかんで首を横に振った。


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