「神は気まぐれな方だから降りてきても我々に力を貸してくれるとは限らない。
森を枯らしてしまうかもしれないし、蘇らせてくれるかもしれない。
だから私たちは神を説得してなんとか森を蘇らせてくれるようにするんだ。
その為には君たちの力が必要になる。言葉で通じればあるいは上手くいくかもしれないがそうでなければその時になってみないとわからない。本当に運任せだ」

「そんなのどうやって説得したらいいんだよ」

「取り繕う必要なんかない。君たちの言葉で説き伏せてくれれば」

「『君たちの』ってところが重要だねえ。俺たちはどうにも君たちの感情とは別のところにいるから『其れ』が足りないんだ」

「よく、わからないけど…」

「まあ、手伝えるなら」

まだ細かな部分は曖昧な気もするが狸よりも狐よりも一番わかり易く説明してくれるムジナには感謝するべきだろう。
彼女自身が人間の世界に溶け込んで生活しているおかげだろうが言葉に感情が混じっている。
狐たちにも感情はこもっているがみのる自身が言うように少しずれているもののような気がしたので彼女が現れたのは大きな助力になった。
みのるもこうして初めからちゃんと説明してくれればいいものをどう言うわけかわざわざ解読困難な暗号のようにして話をしてくるので秋太は首をかしげるしかない。
今でもまだ何か話していないようなことがあるようなそんな笑みで様子をうかがっているのはもともと狐と言う動物の本性なのだろうか。

「私たちも力を貸すがもちろん、神を独占しないというお互いの条件があっての話だ」

「わかってるよう、神さまはみんなのかみさま」

「それから…あのメス狐とはうまくやっているの」

「そうだねぇ、少しドジなところが可愛いよお」

ムジナはすらりと伸びた足を前に出して立ち上がるとそう、と返事をする。
タイミングを見計らったようにきゅっと絞られた腰あたりから上品なメロディが流れてムジナは携帯を取り出して電話に出る。
2、3度首を縦に振りながら返事をしてすぐに電話を切ると仕事の時間だから、と
少し申し訳なさそうにつぶやいた。
都会で有名なモデルがこんな田舎町までわざわざやってきて森の心配をして戻っていくなんて非現実的なんてものじゃあない。

「何かあったら連絡してほしい。私の番号を教えるから君たちのも教えてくれる?」

「え?ああ、うん」

電話番号を交換しながらこんなに人間らしい人がアナグマだなんて秋太には信じられなかった。
みのるのように耳やしっぽが出ていない、どこからどうみても人間そのものなのでそう思うのかもしれないが、そんなムジナは番号を交換し終えて携帯をまたポケットへ押し込むとすでに違う顔になっていた。
きりりとした、仕事をする人の表情だ。
これがもとは獣だなんて。

(世の中いろんなことがあるよなぁ…)

そんな風に考えながら颯爽と石段を降りていくムジナの細い背中を見送って三人はややしばらくその場に座っていた。
最初に立ち上がったのはみのるでみのるは境内の方へ歩いていくと
神社の前にある古ぼけた小さな賽銭箱に小銭を投げ込んで二礼二拍とそしてまた一礼する。
小さな頃からどこかの神社へ行くと秋太が両親に教えられた作法をみのるがこなしていくのをぼーっと見つめながらふと昔の記憶を思い出していた。
今思えば行く先々の神社すべて稲荷神社だったような気がした。
そしてその度に母が熱心に何か願い事をしていたのだ。
今思えば母は、その神社に棲む狐と何か話をしていたのかもしれない。
或いは、彼女もみのるたちと同じように神さまを探し出す方法を模索していたのかもと少し都合がいいかもしれないがそう思ってしまう。

「自分の主に願い事すんの?」

「主様は神様じゃないよぉ、あくまで神様の使い。俺はその使いの使いってことだねぇ」

「え?!そうなの?!俺てっきりお前の主様が神様かなんかだと…」

「力はあるけれど、言ってしまえばただの狐だよ」

あのでかい狐がただの狐などとは到底思えないがもしあの狐が神様であれば山の神のことも大狐が探せるはずなのだ。
それが出来ない時点でやはりみのるの言うとおり乱暴に区別してしまえばただの狐なのだろうなと思った。
すると不意に足元に生ぬるい空気が通ったような感覚があった。
特に意識したわけでもないのに秋太はつい、と大狐がどっかりと横になっているであろうあの洞穴の方へ視線を移した。








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