3人は、寄り道もせずに真っ直ぐ大狐が棲む洞穴の近くの神社へ向かう。
この町で生まれ育った西崎が実はこの神社へくるのが初めてだと告白してきたのには驚いたがだからこそ狸が彼に目をつけたのかもしれないと思うと妙に納得できる。
階段を登る途中で何もいない方へ小さく手を振る西崎は自分には見えていないものが見えているのだろうが、どう言う気持ちで見ているのかまでは考えたことが無かった。
誰にも理解されない不思議を秋太も持っているが西崎は視覚にまで至るのだ。
その上、共命までして存在感が薄くなるのだから自分には考え付かないような孤独があったに違いない。

「ちょっと待っててねえ」

鳥居をくぐってすぐのところで立ち止まったみのるは、じっと空を見上げて何かを待っているようだった。
そのうち、風が強くなって周りの木が揺れ始めると葉っぱがぶつかり合ってさわさわと音を立てる。
一緒になって秋太と西崎も空を見上げたが時々飛んでいる鳥を見かけるだけで特に何か変化が見えるようなことはなかった。
すると不意にみのるは視線を神社横の草むらへ向けて目を細めて来た、とほんの少しだけ楽しそうにつぶやいた。

「わたしを呼びつけるなんていい度胸してるじゃないか、狐」

「秋太がねえ、君を見たいっていうから」

「秋太?」

髪の短い、すらっとした体系の女性が草むらから出てきて、石畳の境内に入ると高いヒールをカツカツと鳴らして歩いてきたので二人はぎょっとした。
女性は、まん丸の目を細めて秋太のすぐ前まで歩いてくるとじーっと観察している。
一番驚いたのはその身長だ。
ヒールの高さがあるとは言え、さほど高いとは言えない秋太の身長を優に超えて見下ろすのだから尻込みしたくもなった。

「私がムジナだよ、秋太くん陰陽師くん。先ほどはカラスが世話になったようだね」

「………ムジナって何?」

「君たちでいうところのアナグマだね、狸の方に属するのかな。ほら、人間の言葉に『同じ穴のムジナ』っていうのがあるだろ?」

「ああ、あったような…」

「ふふ、かわいいね、秋太くんは。狐なんかには勿体ない」

ムジナの言葉にすっかりあきれて言葉も出てこない秋太は、不意に彼女とどこかで会ったような気になって眉間にしわを寄せた。
秋太から離れて今度はみのるへ絡む背の高い女性の後ろ姿をじっと見つめて
どこで会ったのだろうと考えるがどうにも思い出せない。
会ったのでなければどこかで見かけたのか、或いは気のせいなのか?
のど元までその答えが出てきているのだが口を開いても空気が通るだけで
何の変化もなかった。

「仕事は順調なの?」

「おかげさまでね」

「仕事?」

「ムジナは人間の世界で仕事をしてお金を貰っているんだよ俺には真似できないけれど」

「モデルをね。しているんだ」

「ああああ!思い出した!なんか雑誌の表紙に出てた!!」

秋太がムジナを指さして叫ぶとムジナは嬉しそうに目を細める。

「君が知っているだなんて意外だな、まあ時々テレビにも出るから見かけているかもね」

「見かけるなんてもんじゃねえって!!駅前のでかい広告塔に載ってる人じゃん!ジーナだ!!」

「正解」

愛らしくウインクしてムジナは三人の前で軽くポーズを決める。
この町に来る前に女性雑誌や広告塔、それから本当に少しだがテレビにも出ていたと、本人に言われて見れば次々に記憶がよみがえってくる。
以前通っていた学校でもクラスの女子がこんな女性になりたいと憧れのまなざしで友人とおしゃべりしていたりもしていた。
そんな彼女たちが憧れるモデルがムジナと言うアナグマの変化した姿などと誰が想像するだろうか。
少なくとも秋太には絶対にできないと思った。






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