昼休みの楽しい空気がすっかり悪くなった気がする。
ぽわーんとしていて何を考えているのかわからないあの狐がいつもよりも真面目と言うか、大人びて見えたのだ。
おっとりとした口調のままで、カラスを牽制するようなそんな雰囲気だった。
空になって返された弁当箱をかばんに詰め込みながらさっきの話を思い返してみれば狸と狐の他に、もう一つ勢力のようなものがあるようだ。
ここに来てからめまぐるしいことばかり起こっていて頭の中が混乱しそうだったので本当ならば昼休みに一つ一つ整理していこうと思っていたのに思いがけないカラスの登場で更に混乱してしまった。
廊下でフクロウと別れて教室に戻り、席につくとまた退屈な授業が秋太を待っている。
昼からの授業は満腹感と眠気が異常に襲ってくるのでずっと座りっぱなしの生徒たちには拷問に近かった。

(つーか、ムジナってなんだろ…)

さほど流暢とは言えない英語の先生の発音を耳にして黒板に書きだされる
文字をのろのろとノートに書き写しつつその端にカタカナで書き起こしてみてもそれがなんなのかさっぱりわからなかった。
動物の名前だろうということはわかるがそれが何を指しているのか皆目見当もつかいないのだ。
ただどこかで聞いたような言葉でそれを思い出そうとしても喉まで出かかっている言葉は何かに突っかかってなかなか出てきてくれない。
うんうんと悩んでいたら先生が何かわからないところがあるのかと尋ねてきたので
あわてて秋太は首を横に振った。

眠たい授業が終わると放課後の教室は部室へと急ぐ生徒や帰宅する生徒たちでごった返す。
さっきまで静かだった生徒たちは高校生にしては子供のようにはしゃぎ、廊下を走り回っている。
先生が制止する声もさようならの声も日常的で当たり前の光景だ。

「秋太帰らないの?」

「え?あ、うん帰る帰る」

「斉藤くん一緒に帰ってもいい?」

「もちろん大歓迎〜」

「お前が返事すんな」

遠慮がちに尋ねる西崎にみのるが両手を挙げてミュージカル調に言うと
西崎は、くすくすと笑いを漏らす。
一緒に教室を出ると兄とは正反対の控え目な印象の西崎は嬉しそうに秋太の隣に並んだ。
三人を追い越していくクラスメイト達はその度に珍しいメンツに驚いた表情を見せるが
特別、西崎を毛嫌う素振りもなく秋太やみのるにするように西崎にも別れの言葉を告げていく。
慣れていない西崎は小さい声のまま小さく手を振ってさよなら、と呟いていた。

「斉藤君と友達になっただけで随分違うな」

「普通じゃん。あと別に君とかいらねーよ」

「秋太でいよー秋太で」

「だからなんでお前が言うんだっつーの」

「俺は秋太のおもりだから〜」

黄色い耳をぴょこぴょこ動かして二人よりも一歩前に出て歩くが大きなしっぽが左右に揺れて邪魔にならないのかと不思議でならない。
ふと秋太は、授業中に考えていたことを思い出して楽しげに歩く背中に声をかけた。

「なあムジナって何?」

「ムジナはねえ、とっても気が強くてねぇ、女の子なのに危ないことばあっかりして…」

「いや、性格的なことは聞いてねぇから」

「なあに、会いたいの?」

最近、特にみのるがよく昔話なんかにでてくる狐と姿がダブって見えるような気がする。
そもそもキツネなのだから間違いではないが、絵に描いたように妖しいので
普段と少し違うみのるが遠く感じて足元に崖のようなものができている気分になるのだった。



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