カラスは人目が無いとみるや、秋太の隣に羽ばたいて降りてきた。
視界の端でフクロウが機嫌悪そうにしているのを感じながら秋太は
条件反射で弁当のフタを閉める。
カラスはまっくろな体を二、三度震わせるとつむじ風が小さな体を包み込み、人間の姿が現れた。
真っ黒なつやつやの長い髪を靡かせて、腰辺りから大きく膨らんだふわふわのスカートを翻すカラスは、大きな目をパチパチさせて秋太の方を振り向く。
スカートを摘んでおじぎする姿はシンデレラか何かのお姫様を想像させる。
見た目は秋太よりも幼いがきっと彼らの肉体年齢と実際の年齢は伴っていないだろうからそこにはあえて触れようとは思わなかった。
とにかく、カラスは可愛かったのだ。

「初めまして、カラスです」

「あ、どうも…」

「な、あ、に、鼻の下伸びてるわよ!!」

「いっで!痛ぇフクロウ!!何すんだよ!!」

「君は狸の仲間じゃあないね?」

じゃれる秋太とフクロウをよそに西崎が優しい声色で尋ねるとカラスは真っ黒な瞳を
少し細めて頷いた。
自分の弁当を食べ終えたみのるは秋太達が騒いでる間にとそっと秋太の弁当へ
箸を伸ばしたがしっかりと手の甲を秋太にはたかれる。
そんな秋太はフクロウに腕を回されており、気道を守ろうと必死になっていた。

「そうよ。狸も狐も人間なんかに助けを求めちゃって…」

「あんまり人間を馬鹿にしていると、痛い目見るよ?君なんかは十分思い知ったじゃあないか…」

みのるが、静かに目を伏せて弁当箱を大きな弁当入れの巾着に丁寧に入れて
紐を引くと巾着の口がゆっくりと小さくなっていく。
珍しく物静かな物言いをするので秋太は背中に張り付いているフクロウを見上げた。
その細い腕をようやく緩めてくれたフクロウはさっさと秋太から離れ、さっきまで自分が座っていた位置にまた座りなおして弁当箱を膝に乗せる。
その動作が実に女性らしくてどこからどう見ても元がフクロウだなんて思えなかった。
カラスもみのるも口調は優しいのにどこか言葉にとげがあって、秋太は無意識に身構えてしまう。

「そうね、頭が良いわねぇ。私たちの住んでいた山をたくさん削ってくれちゃって…!!神の使いの私たちを…!何もできない人間が…!」

カラスの表情が段々厳しくなって行ってやがて秋太と西崎を睨みつけた。
今までずっとみのるやフクロウとばかり話をしていたカラスは、
間抜けな顔の人間へと怒りの矛先を向ける。

「この馬鹿たちは優しいのかもしれないけれど、他の動物たちも、神様も違うわ!
あんたたちがそうやって自然を壊していくのをこちらはただ見てるだけだなんて思っていたらね、今に天罰が下るんだから!」

「ガキね、カラス。大きな声なんか出しちゃって」

「あんたたちはおかしいわよ!どうしてこんな人間なんかに協力してもらおうなんて考えるの?!それとも何かしら、この子供たちを人身御供にでもするつもり?」

カラスは冷やかに呟いたフクロウへ吐き捨てるとよほど興奮しているのか
さっきまでの穏やかさがうそのように肩で息をしている。
人間が自分勝手に自然を開拓していくのも事実だしカラスが怒って興奮するのも理解できた。
一緒にいるみのるやフクロウ、鹿だってもしかしたら本当はもっと沢山言いたいことがあるのかもしれない。
彼女が翻ってまた先ほどの小さなカラスに戻る瞬間にふと見上げるとあたりに小さな光が見えた。
チカチカと漂う光は、すぐに消えてしまったがフクロウも狐も特に反応は無い。
カラスがなにかしたのだろうかと尋ねようとも思ったがそんな雰囲気ではなかったので
あとでこっそりみのるにでも聞こうと思った。

「どちらにせよ、山の神を降ろすのはムジナよ」

「ふうん……じゃあムジナに伝えてくれるといいな」

羽ばたくカラスを目を細めた狐が耳をぴくぴくと動かしながら見上げる。
その姿がなんとなく面妖で秋太はふと、みのるが妖狐なのだということを思い出した。

「そんな甘い考えだから狸にも出し抜かれるんだよ、少し頭を使うといい。馬鹿じゃないカラスがついているんだから俺が言っている意味がわかるだろう?」

「…!!この…っ狐…!!」

空高く飛んでいくカラスの後ろ姿を見つめているみのるが
なんだかいつもとは違うように見えた。




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