事実を知った時は弟は号泣するし、父親に問いつめると笑って誤魔化すし、当の母親はごめんね、と軽くあしらうだけで秋太は肩の力が一気に抜けた。
けれどそれでようやく自分がどうして動物の言葉を理解できるのかがわかった。

「あとで神社にお参りに行こうね」

「神社?」

「あの山のてっぺんにある神社、稲荷神社だから」

「ああ、稲荷……古巣?」

「うるっさい」

息子に遠慮無しにローキックを食らわす母。
おっちょこちょいで毎朝のゴミ出しを息子に押しつけては自分は眠いからとソファで居眠りをするようなそんな人が。

(狐って…漫画か…)

狐って言うからには尻尾とか耳とか
とんがった鼻とかシュッと鋭い目つきだとかそう言うのを想像するけれど母にはそう言った類の特徴が一切見られない。
不思議な事にぱっちりとした目の美人とまでは行かないけれどごくごく普通の母だと思う。

「行って何すんの?」

「あんたを生け贄にすんのよ」

「は?」

何を言い出すのやら生け贄なんて笑えないし第一こんな時代にそんな大昔の怪しい宗教めいた事をなんだってしなければならないのか。
そもそも本気なのか冗談なのかわからないところが怪しい。
しかし普通ならば笑いとばしておしまいなのだが、つい最近母が狐だとわかったため秋太は世の中の不思議を目の当たりにしている。
あんがいあり得る事なのかも知れないと考えるとほんの少しゾッとした。

「ビビってんの?」

「ビ、ビビってねえよ」

「大丈夫。生け贄って言うよりパシリよパシリ」

「は?」

「私がこの山から出て行く時の条件で、もし山に戻るような事があったら私の子供を小間使いとして差し出すようにって言われたの」

「なんで俺!夏生でもいいじゃん!」

「だって夏生、動物の言葉わかんないんだもん」

(だもん、じゃあねえだろ)

それはつまり子供としての秋太の意見も意志もまるで無視した約束で大人の…と言うか狐の理不尽さに秋太はイライラしてくる。
けれども足はしっかりとその目的地である神社に向かっていておかしな事に横道にそれることも出来なかった。

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