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「堂々とスパイ行為なんて洒落てるねぇ、カラス」
「スパイだなんて。たまたま空を飛んでいたら間抜けな声が聞こえてきたからここに寄っただけよ」
「そう、それでよく私がいるのに声をかけられたものね…」
「ああら、フクロウじゃなあい?この間、鷹があなたを探していたわよぉ?」
カラスと呼ばれた生き物は真っ黒な体を揺らし、近くで見ると大きな羽をばっさばさと羽ばたかせてしっかりと人間の言葉を話している。
カラスの嘴からはかなりの猫なで声が出ていてみるからにフクロウを挑発していた。
さっきまでの和やかムードが一変し、不安になった秋太と西崎はみのるに目配せしてみたがそもそもこの呑気な狐が他人の争いごとに興味を持つ事など少ないのだ。
頭上でカラスとフクロウが喧嘩しようとも、例えば秋太が弟の夏生と喧嘩しようとも
何処吹く風である。
秋太がフクロウを止めてもよかったが後が怖いのは目に見えていて出来る事なら
みのるになんとかこの場を収めて欲しかったがすでにカラスには興味が無くなったのか自分のために用意された弁当を黙々と食している。
「そう、なら鷹に伝えて頂戴。今度あんたの巣を見つけたら地面にたたき落としてやるからって」
「こぉわあい、鷹が怒るわよ?」
「鷹もいるのか…ちょっと見てみたいな…」
「あんなの!どう猛で自分勝手で食い意地張ってて鈍感で最低最悪のやつよ!!あんなやつなんかより…!」
「??」
感心したように言った秋太を一気にまくし立てたフクロウは、言葉を途中で切ると
暫く口を動かすのを躊躇っているようだった。
秋太は首を傾げて続きを催促してみたがフクロウはなんでもないとそっぽを向く。
「まあ、あの時は酷かったよねぇ、フクロウが血だらけになって俺のとこに来た時は食べてもいいのかと思ったよ」
「やめろ、なんか語尾だけやたら普通にするのやめろ怖ェ」
丁度みのるがそう言って鶏の唐揚げを頬張ったものだから、カラスとフクロウが
異物を見るかのようにぎょっとして狐を睨んだ。
本気なのか冗談なのか掴めないので西崎も秋太も表情を引きつらせる。
狐は、目を細めてニイイと笑みを浮かべた。
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