13

休み時間もあと3分を切った頃、元気な声で飛び込んできた生徒がいた。
否応なしに注目されたその人物は何度か教室を見渡した後、入り口のすぐ近くで
目的の人物を見つけて嬉しそうに近寄ってくる。

「幸人!いたいた!なあ、辞書貸してくんない?!」

「伸幸…だから朝言ったのに」

「ごーめんてば」

「俺も後で使うから返してよ」

伸幸、と呼ばれた少年は、顔つきこそ西崎にそっくりだが秋太はその違いに驚いた。
まず血色が全然違う。
白い肌の西崎とは違ってしっかりと血の通った肌色をしている。
声量も西崎とは比べものにならないくらいに通っていて運動部か何かへ所属しているのだろうかと連想させるぐらいにハリがある。
何より決定的に違うのは存在感だった。
西崎はぼんやりとしか見えないし感じられないのにこちらははっきりとしていて
生きるのに喜びを感じているようなそんな雰囲気がある。
呼吸をするのでさえ楽しそうに見えるのだ。
双子の兄は、用件を済ませるとさっさと隣へ戻っていく。
実にあっさりしているものだと感心して西崎へ視線を戻すと彼は何かに集中していた。

「『その』タイミングってなんなの?」

「俺が意識してしているものじゃないんだ。発作のような…力を吸われたり、自分の中に留めておけたり」

「留めてる時が、薄くなる時?」

「そう。俺も維持して行かなきゃ死んでしまうから」

「秋太、共命って言うのはもともと一人の命をね、半分こする事なんだよ。
でも西崎くんの場合はぎりぎりだけどお兄さんの『元』があるからそれほど西崎くん自身に負担が大きくなってないってだけで、一番苦労してるのは多分西崎くん」

西崎へ指を指したみのるはそうでしょう?と同意を求め、西崎もまた
居心地悪そうにしながらもこくりと頷いた。
昨日聞いた話とはまるで180度違うように聞こえる、と言うか
昨日の説明の一番大切なところをこんな人の多い場所で話すものだから
秋太はだんだんと顔を顰めていくしかない。

「…その話の流れで行くと昨日の俺はものすごく勘違いして西崎に当たってたって事になるわけ?」

「そうだねぇ、秋太。恥ずかしいかも知れないけれど秋太はとーっても八つ当たりしてたんだねぇ」

「!!!教えろよ!」

「そんなのわかるわけないだろぉ、人間の考える事なんて理解不能だよ」

にやにやと笑うみのるが憎らしいと感じて秋太はくっついている狐の少年を
引っぺがす。
そんな二人がじゃれているように見えるのか西崎が堪えるようにして笑っていた。

「なんだか、子狐が遊んでるみたいだね」

「やめろ、マジで、やめろ」

凄んで見せてもじゃれてくっついてくるみのるが子供のようなので
西崎は更に声を上げて笑う。
クラスにいた何人かが聞いた事がない笑い声に驚いてそちらを振り向けば
あまりにも珍しい光景にぽかんとしていた。
クラスで浮かない存在の西崎が声を上げて笑っているのだ。
それだけでも驚く事なのにそれ以上に彼が友人らしき人物と談笑しているのだから。
何人かは初めて『西崎』と言う存在をはっきりと認識できたぐらいだ。
そんな少年と会話をしている男子二人のうち一人が転校生と気がついて
一人の女子がすごい…と呟く。
身内である双子の兄と話している時でさえ影が薄いのに最近このクラスにやってきた少年がそれをやってのけてしまったのだ。



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