12

朝、教室に入って自分の席に座る。
隣を見たらまだ登校していないようで誰も座っていない。
そのうちにパラパラと生徒達がおはようと元気な挨拶だったりけだるそうな話し声だったりが響く。
みのるがその流れで一緒に教室へ入ってきたがその時点でも西崎はまだ来ていなかった。
来ていたら気がついて何かしらのコンタクトを取ってくるはずだ。
そうしてやがて担任の教師が教壇に上がって朝のホームルームが始まって
気がつくと隣に人の気配がした。
秋太は、いつ西崎がそこに座ったのか記憶が無い。
誰かと挨拶を交わした様子も無いので教室に入ってすぐに自分の席についたようだ。

(ほんとに…存在感ねぇな…)

担任の先生が今日の職員会議の予定を説明し、下校時間が早くなった事を告げると
クラス中が喜びで満ちあふれた。
惜しげもなく喜ぶので先生がコラコラと諫めたがそれも軽いもので生徒が喜んでいる事の方が嬉しそうだ。
やがてホームルームが終わると10分の休みに入る。
秋太は隣へちらりと視線を移すと昨日は見られなかった西崎の素顔を見つめた。

「おはよう」

「おう」

「見合いみたあい」

「みのる…!」

秋太の背中から声が降りてきたかと思うとみのるが覆い被さるように
秋太の頭に頬杖をついた。
みのるの重みが体にのしかかったがもとが狐だからあまり重いと感じない。
それでも乗られている感覚はあるので顔を顰めて後ろを振り返ろうとしたが
くすくすと前から笑う声が聞こえるので秋太は改めて声の主へ視線を戻した。
おっとりとした表情ですっと通った鼻筋と男子にしては色の白い肌の持ち主の
幸の薄そうな少年だった。
美少年とまではいかないにしろ整っている顔立ちをしている。
それなのにクラスの女子がさわがないのが不思議でならなかったが昨日の会話を思い出してそれが原因かとも思った。

「はじめて君の顔を見たねえ」

「面を外すと君の耳としっぽが見えなくなるよ」

「あれは媒体?俺も、君が薄く見える。ねえ秋太?」

「うん」

「あれー。西崎が喋ってる。珍し〜」

クラスメイトの男子が冷やかすように声をかけてくる。
実際冷やかしているが、西崎は特に嫌がる様子はなくむしろにこりと男子に笑いかけた。
男子の名はなんだっただろうと秋太は、やや暫く考えてようやく彼が長谷川と言う苗字だった事を思い出せた。

「双子の兄貴はあんなに目立つのになあ」

「伸幸は、運動が得意だから活発なんだよ。俺はそう言うの苦手だし」

肩を竦めて西崎が答えると長谷川はそんなもんかと興味もなさそうにまた
友達のところへ行ってしまった。
短い休み時間を興味のない事に潰したくはないのだろう。

「お兄さんは元気?」

「うん、大丈夫だよ」

「運動が出来て活発な兄貴…ねえ?ちょっと昨日の話とイメージ違うんだけど」



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