みのるは、一歩前へでて、フクロウと秋太を背中に、
狸と少年に近づく。
狸はいままでの余裕を少し隠して警戒しているのか体をかがめた。
少年はと言えば相変わらず表情など読みよれるわけもなく、
狸の後ろでじっと立ったまま動かない。

「狸、俺は斉藤くんと友達になりたいんだけど」

「いけませんよ、こいつらはわたしたちの敵なんですから!」

「…敵とか味方とかそんな事を言っている場合じゃないんじゃないの?」

「しかし、こいつらは山の神を独り占めに…」

「しようとしてるのはどっちよ!」

「お前らだろ!」

「私たちはそんな事してないわよ!」

「あーちょっとなにその山の神とか。なにそのレベルの話。ちょっとついて行けない」

だんだん声を荒げていくフクロウと狸の間に入って秋太がフクロウに説明を求めた。
フクロウは、秋太をキッと睨むと勢いよく顔を背けて祠の方へ歩いていく。
つまり彼女の口から話すつもりはないらしい。
よくわからないものへの恐怖心はどこへ行ってしまったのか
フクロウはもう怯えてはいなかった。

「山の神とか、何?」

「話すと長いんだよねぇ」

みのるは、相変わらずおっとりした口調で口を開くと淡々と話し始めた。
この山には神様がいて、動物も人間もずっと昔から奉っていたらしい。
ところが最近じゃ人間の方が信仰心薄くなってきていて神社にお参りすら来る人も減ったのだと言う。
山の神は、すっかり落ち込んでもう何年も姿を見せていなかったが、その原因が
山の二つの勢力のどちらかが山の神を隠しているせいだと誰かが言い出した。
人間の信仰心が薄れたのは、狐が、あるいは狢が神を隠したからだと。
お互いがお互いを疑って、いがみ合っているうちに月日が経ち今のこの状況。
そもそも独り占めしているという話もどこから出たのかわからないらしい。
一通りの説明を受けて呆れたように秋太は溜息を吐く。
吐かずにはいられなかった。

「…人間が神様お参りしてないのも悪いけど…お前ら馬鹿じゃねえの?」

「人間のお前に何がわかる!」

「…都合の良いときは人間…いい加減頭来るんだけどお前ら」

「あー…秋太…?」

あきらかに雰囲気が変わったのを察知してみのるが秋太の様子を伺ってみたがすでに遅い、
秋太は狸に詰め寄ると大きく息を吸って一気にまくし立てた。

「お前らが俺を狐の子供だからってここに連れてきてあれしろこれしろって言ったくせに都合が悪いと人間扱いかよ!馬鹿にすんなよ!だったら最初からお前らだけで
勝手にやってろよ!!確かにここ田舎だけど俺だって普通にクラスのみんなと
遊びてぇんだよ!それも我慢して来てるっつーのに巫山戯んなよ!」

狸は秋太の声量と勢いにすっかり気圧されてしまい目を白黒させながら固まっている。
みのるもそうだが少し離れた場所にいるフクロウでさえ驚いて秋太を見つめているものだから暫く沈黙が続いた。
秋太は大きく肩で息をして呼吸がだんだん整ってくると少し冷静になったのか
このあとどうすればいいのかがわからずに地面を見つめるしかなかった。

「秋太、ごめんねぇ?」

「わ、悪かったな…」

「謝るぐらいならすんなよ」

みのるに謝られるのはわかるが狸までも頭を下げてきたのには少し驚いた。
確かに怒鳴った対象は狸だが、理不尽だと思わないのだろうか。
心の端っこにそんな気持ちも涌いたがそれよりも怒りの容量の方が大きかったで
秋太は拗ねてみせる。

「でも秋太にしかできない事だからってお主さまが言ってたから」

「だから、それが何だよ」

「大狐がそう言ったのか」

「うん。」

「…ウチの親分はこの人しか出来ないと言ったぞ」

「だからなにをだよ!!」




「神を呼ぶんだろ」

思いがけないところからの言葉に今度は西崎が注目される事になった。

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