「こんにちは斉藤秋太くん」

「…誰」

「隣の席の西崎だよ」

「西崎……」

そんな生徒はいただろうか?
そもそも自分の隣の席は誰だったろうか?
一番壁側のだから右側の隣?左側の隣?などとぼけた質問も出来ない。
隣の席に誰か座っていたような気はするのに思い出せない。
前後斜めの席に誰が座っているのか、は覚えているのに。
みのるに目配せしてみればみのるも不思議そうな表情で枯葉の少年を見つめているので
狐にも彼の記憶が殆どないようだ。

「さっきさ、あっちにいなかった?」

「いたよ」

「いつのまにここに来たっけ」

「狭間をね、通ったからわからなかったんだと思う」

「狭間…」

よくもあんな恐ろしいところを通って…と思いかけて思考を止める。
この西崎と言う少年がなぜ狭間の事を知っているのか。
どうやって一人で通る事ができたのか、
第一に、この奇妙な枯葉のお面はなんなのか。
なぜ顔を隠しているのだろうか。

「なんだフクロウ、怯えてるのか」

「狸…」

「えっ?!…学校の?」

「そうよ」

スイ、と西崎と名乗った少年の背後から出てきたのは
山吹色の薄い着物を着た男だった。
みのるよりも少し背が高い位で茶色の長めの髪の毛を首の後ろで結んでいる。
昼間はフクロウが狸を見下ろしていたが今は狸がフクロウを見下ろしていて
なんだか立場が逆転したようだった。

「このお方が陰陽師だ」

「は?」

「狸、違うってば、俺は」

「いえいえ、またご謙遜を。私たちはちゃんとわかっていますよ。
そのような業を使えるのは陰陽師しかおりません」

「わざ?」

秋太には話がちんぷんかんぷんではあるが、狸の口ぶりだと結局の所この西崎と言う少年は人間に間違いないという事だろうか。
眉間に皺を寄せていると狸が少し自慢げに鼻で笑う。
なんだか悔しい気分になって秋太は、ムッとした。

「お前にはできない事だな、俺に騙されるくらいだものな」

「えっ秋太騙されたの?」

「あんたがついてなかったからホイホイ騙されていたわよ」

「あーもう、うるさい!」

みのるが確かに吹き出したのでフクロウが肩を竦めて呆れて見せた。
馬鹿にされて嬉しい人間なんていないし、秋太は、少なからずこれは恥ずべき事なのだと認識して二人の会話を無理矢理に終了させた。



[ 19/63 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -