いくらフクロウが可愛いとは言え、してあげたいと思っても出来る事と
できない事がある。
ちょっと重たい荷物を持ってあげたりするくらいなら喜んでしたいが、
今回…と言うか彼ら動物たちのお願いは、人間の許容範囲を超える。


「大丈夫よ!いざとなったら生け贄になればいいのだから!」

「ふざけんなよお前」

「まあそれは冗談として、大丈夫よ、あんたなら」

「どんな自信だよ…」

根拠の無い『大丈夫』ほど信用ならない物はない。
具体的に何をしろとも指示がないあたり、恐らく自分に丸投げされるのだろう。
せめてああしろこうしろと言ってくれれば良いがそれはきっと期待するだけ無駄に終わりそうだ。

「とにかくそこに行くの」



みのるも足取りは軽い方だったがフクロウは更に軽快に山を登っていく。
山とは言ってもちゃんと舗装された道だからおかしな事は無いが、
特に彼女は羽が生えているように軽やかな足取りだった。
そう考えて、そう言えば彼女が鳥であったことを思い出す。
こんなに可愛いのに、と心の中で呟いてから彼女たちの容姿が、本人の自由で
変えられるものなのでは、と言う疑問が浮かんだ。

「…なあ、お前らさ、その…外見って自由に変えられんの?」

「そんなのができるのは狐とたぬきだけよ」

と、言う事はフクロウは本来の姿からのイメージなのか。
ちょっぴり安心して華奢な後ろ姿の後をついて歩く。

「あんたもできるでしょう?」

「は?出来るわけねーじゃん」

「できるわよ。出来ないと思いこんでいるだけで」

通常では考えられない、あり得ない、出来るはずが無い事を彼らが
さも当たり前のように言ってのけるところが実際の所秋太は一番恐ろしいと感じる。
狭間にいた時とは少し違う恐ろしさは、暫く胸の奥でモヤモヤと漂って
やがてスッと消えてしまう。

「あ、いた」

「………」

「?フクロウ?」

前を歩くフクロウの向こう側に人影を見つけ、秋太が声をあげたが
フクロウは、そこでぴたりと歩みを止めてしまった。
直立不動にその場に立ち止まり一点を見つめたまま動かない。
不思議に思ってそっと顔を覗き込むとかわいいフクロウの顔が険しくなっている。
すぐそこに狐がいるが狐は二人に気がついていないようで何かを伺っている。
みのるの横には古ぼけた赤塗りの小さい祠のようなものがあった。

「いる」

「え?みのるなら」

「みのるじゃないもの。生きているのか死んでいるのかわからないもの」

「は?!怖いこと言うなよ…!」

「死んでるならいいの。霊としてその場にいるだけだもの。でもアレは違う。
わからない」

フクロウの細い指が秋太の制服の裾を捉えてキュッとシワを作る。
ようやく、フクロウが怯えているのだと気がついて秋太は、少し巫山戯るのを辞める事にした。

「みのるはなんか知ってんの?」

「わからない。伺っているから計りかねているのかも」

秋太はそれ以上聞かず、一つ深呼吸をしてみのるへ近づいていった。
てっきり掴んでいた裾を離すかと思っていたフクロウがそのまま一緒についてきたのには少し驚いたが振り払うつもりはなかった。
みのるの隣に立つとフクロウと同じように直立不動で立っていたみのるは
秋太の姿を確認するや否やにっこりと笑顔を浮かべた。
笑いかけたと言うよりは、どこか安心したように息を吐いたようにも見えた。

「秋太」

「…なにアレ」

「アレは人として見ても良いと思う?」

「人じゃないの?」

「人だよ」

みのるへ尋ねたつもりだったが、返ってきた声は、みのるよりも少し高かった。
不思議に思って後ろを振り向くとさっきまで目の前にいた筈の人間が後ろに立っていた。
驚きのあまり悲鳴を上げそうになったが秋太はうっ、と声をなんとか詰まらせ、
後ろへのけぞる。
みのるが見ていた人間、秋太が見た人間、フクロウがよくわからないものと言ったその姿は、見た目は秋太と同じく学ランを着た、身長もさほど秋太と変わらない
少年で、少しおかしいとすればその顔には大きな枯れ葉で作られた狐のお面をつけていると言う事だった。







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