「ふん!空の支配者め!森を独り占めに出来ると思ったら大間違いだぞ!」

狸は地面を蹴り、フクロウから距離をとると身構えてそう叫ぶとフクロウが一歩
歩み出る。
腕を組み毛むくじゃらの生き物を見下ろす…と言うよりは見下して、眉を顰めた。

「それはそっちでしょう。わたしは、あんた達が馬鹿みたいにくってかかるから狐側についただけ。よくもわからないものを崇め奉って、何をしようとしているの」

「お前達には関係のないことだ」

「そーう?」

「それにこちらにだって陰陽師がいるんだからな」

「おん…?」

「何よソレ」

「叡智の神でも知らないのか?陰陽師って言うのはなぁ」

「知ってるわよ。なんであんたの口から陰陽師なんて言葉が出てくるのかと聞いているの。馬鹿なの?」

一刀両断と言う言葉があるが、秋太はフクロウのぐうの音も出させない威圧感と
言い回しに少なからず感心してしまうほどに狸の言葉を遮ったのがわかった。
狸はあうとかううとか言葉にならない音を発していて、それ以上は何も言えなくなってしまっていた。
やや暫くごそごそしていた狸を眺めていたフクロウだったがやがてしびれを切らして
地面を力強く踏みつけるとそこここらにダンッと音が響く。

「それで、その陰陽師がどうしたっていうの!」

「そっそれは言うわけないだろ!」

「狸」

「ううううるさい!俺は帰る!」

「あっ!逃げた」

「こら!待ちなさい!」

狸が機敏に草むらへ飛び込み、慌ててフクロウと秋太は茂みを覗いたが
すでに足音が遠のいてしまっていた。
ぽかんと口を開けてただ向こうを見つめていた秋太をちらりと見てフクロウがアホみたいな顔、と吐き捨てる。
ムッとして睨みつけるとフクロウは冷ややかに口元を歪ませて狸にしたように腕組みをしてその身長差から秋太を見上げた。
さっきは見下ろしていたから迫力があったのかと思っていたがどうやら関係ないようだ。

「何?」

「さっきの、訂正しろよ」

「さっきの?」

「化け狐ってやつ」

思い出したようにああ、と呟いたがそれだけだった。

「本当の事でしょ」

「言い方ってものがあんだろ」

「じゃあ、妖狐って言って欲しいの?」

「よう……」

「だってそうでしょう。人間に化けて人を化かして結婚して子供産んでるんだもの。
普通の狐はしないし。考えられないことだわ」

フクロウに言われて秋太はみるみるうちに項垂れていった。
母親が狐だと言われても実感もわかなかったが、
言い方一つでとんでもなく人間という存在が遠のいた気がする。
鹿に会った事も、みのるが現れた事も、あの大きな狐に会いに行った事も、
冷静に考えれば普通じゃない事だ。
それなのに『こんなものか』と楽観的に考えていたと言う事は自分も少なからずそちら側の人間に近いという証拠だ。
『普通』ならば怯えて叫び声を上げて彼らの側から走ってでも逃げ出すぐらいの出来事なのに。

「…落ち込んでるの?」

「…うるさい」

「案外メンタル弱いのね」

「うるさい」

秋太は、もう一度低く呟くと校舎の方へ向かう。
朝から狸に騙されて貴重な昼休みを潰したわけだから尚更腹が立っていた。
フクロウはついてくる様子もないので恐らくみのるのように授業などには出ないのだろう。
制服を着ているがただ学校になじむ為の変装のようなものらしい。

「今日は狐がいないから私があんたのお守りなのよ。何かあったら呼びなさい」

「お前なんか呼んでどうするんだよ」

振り返らずに答えると後ろでばさばさと何かが羽ばたく音がした。
驚いて秋太は振り向くと目の前には無数の羽を纏った鳥が目の高さまで飛び上がっているところだった。

「私を誰だと思ってるの」

フクロウは大きな羽をいっぱいに広げ何度か上下させると鋭い爪を持った足を
秋太の肩へ乗せる。
ずしりと感じる重みと顔に触れる羽の暖かさがそれを鳥だと認識させた。
フクロウは顔をくりくりと動かして秋太へ頬ずりしてくる。

「必要だから私たちはお前に接触しているんだから。そうでなければ言葉だって交わさないし、姿だって見せないのよ」

「……必要ってただのパシリだろ」

「その考えが見当違いだっていつか思い知るわよ」


フクロウは、まん丸の目をぱちくりさせて、ホゥと鳴いた。


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