時々また、子猫がにゃあと声を上げる。
耳を澄ませば子猫は母親の名前をしきりに呼んでいる。

『おかあさんおかあさん』

(ああ呼んでる…お前のかーさんに頼まれてんだよ俺…なんで頼まれた俺)

家を出る時一匹の虎模様の猫に子供を捜してくれとしつこく頼まれたのだが、
その子供の姿が見あたらない。
あなたの学校の校舎内にいるはずだからと言われたがそう言うのは親猫の方が詳しいのではないだろうか?
疑問に思いつつも伸びまくっている草の間を目を細めて探してみるがやはり見つからない。
でもしっかり声は聞こえるのだ。

「何かお探し?」

「おおっ!?」

「化け狐の息子君」

「は…」

びっくりして振り返れば足のすらっとした少女が秋太を覗き込んでいる。
ほんの少し逆行になっていて表情がはっきりと見えないが、
恐らく可愛い。
ふわっとした髪からはシャンプーの香りなのか甘い匂いがする。
が、それよりも驚いたのはその呼びかけた言葉だ。

「狐が君を買いかぶっているみたいだけれど。子猫一匹も見つけられないオチコボレ君?」

「お前何」

「『誰』じゃあないのね」

「人じゃないだろ」

「感覚は鋭いのね。合格」

無意識のうちに体が警戒態勢に入っていた。
さっきまで感じていた可愛いとかそう言ったものはすっかり吹き飛んでしまっている。
そんな事よりも目の前の何かが怪しいものなのかどうかが問題だった。
今はみのるがいない。
今日は主さまのお世話をするのだと学校を欠席していたのでこれがなんなのかと尋ねる事もできない。

「私はフクロウ。昨日声を聞いたでしょう」

「え?」

「狭間から出てきた時よ」

狭間と聞いても一瞬何の事か、わからなかったがやがてあの
無音の世界を思い出すとまた鳥肌がじわじわと立ってきた。
そうして『こちら』に戻ってきた時に聞いた何かの鳴き声を思い出して目を見開く。

「あれ…!?」

「ソレ。で?猫を探しているの?」

「あっ、うん今朝親猫に頼まれて…」

「自分の力で出来ないようなものをどうして引き受けるの?」

「別に…子猫探すくらいで…」

「ただの子猫だと思ってるんならあの馬鹿狐を今すぐ呼ぶ事ね」

女の子は秋太を横切って数歩草むらへ進むと突然しゃがみはじめた。
そこは先ほど秋太も探した場所で、猫どころか生き物の気配すらなかったはずだ。

『ぎゃああっこらっ!フクロウ!おまえ!離せ!!』

「うげっなにそれ」

「たぬき」

『ばか!もう少しで引っ張り出せたのにくそっ!親猫に化けたのもバレるだろ!』

「えっ」

「自分で自滅したわね」

女の子が片手で持ち上げるにしては少し重そうなずんぐりとしすぎる体型のたぬきは
まるまるとした尻尾と、その体を良くも支えられるものだと感心できる細い手足を
一生懸命に振り乱している。
フクロウと名乗った女の子がぱっと五本の指を広げると狸はどすりと地面に落ちた。
うげっとうめき声を上げる狸を見て秋太もこれは痛そうだと顔を顰める。



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