少なからず、可愛いと言う単語に反応したのは事実だ。
荒々しく角を振り回して別れを惜しむ鹿とみのるの三人であの不気味な森から
出た秋太はやや暫く考えて、それが何を基準にしたものなのかと訝しむ。
ずっと小さい頃に猫から可愛い子がいると聞かされ、
一緒について行ってみたら毛づやの良い雌猫がいた時は本当にがっかりしたものだ。

「学校にも来てるんだよお」

「えっマジで?!…でも、それ。狐の目線からーって話じゃねえの?」

「さあ?でも人間のオスが可愛いって言ってから、そうなんじゃあないの?」

「おお…マジかよ…期待できる」

同じクラスの女子達もそこそこにレベルが高いとは思っていたが
こちらもまた胸を躍らせる情報だ。
今日はもう学校へ行く事はないにしろ、明日もしかしたらお目見えできるかもしれない。

「でもさぁ、フクロウって小難しいじゃん」

「そんな事ないよう。丸々太って…美味しそうじゃあない?」

「食物連鎖…」

「やめろよ!フクロウ食べるなんて罰当たりめっ!」

「食べないってぇ。冗談だよ冗談〜」

「お前が言うとなんか冗談聞こえない…」

じとりと疑いの眼差しを向ければ狐はにこにこと笑い顔を浮かべるのみで
否定も肯定もしなかった。
そんなところは少し母と…弟にも似ている気がする。

「じゃあそろそろ帰ろうか。暗くなってきたし」

「えっ」

「『外』はもう夜だよ秋太」

「なにそのパラレル…」

「秋太も一人で来られるようになるといいねえ」

鹿が2,3歩後ずさりして体の回りにあった暖かさが消えると
秋太は急に心細くなった。
また来られると良いなんて…、できれば二度とここには来たくないと心の中で呟くと
狐がそれを見透かしたかのように首を振ってきた。
その理由はわからないが秋太は、眉を潜めてきゅっと口を堅く結ぶしかできない。
文句の一つも言わせないみのるの雰囲気に飲まれたのだ。
別れを惜しむように鹿が地面を何度か踏んで首を振る。
中身がアレだと思えばこの嘶いているような光景もだだをこねた子供のように思えて面白かった。
秋太は小さく手を振った。

「手つなぐ?」

「つながねーし」

「でもほらあ、間に迷ったら大変じゃない?」

「…間に迷うって何?!」

「時々ねえ、間に挟まっちゃって出てこれない人がいるんだよ」

辺りはまだ明るいし足下もはっきりと見えるのに
どうしてこの狐は気味の悪い事ばかりさっきから言い出すのだろうか。
暗くもないのに暗さを想像して背筋がぞっとして同じくらいの大きさの背中を
掴みたくなる。
怯えていくのが手に取るようにわかるみのるは秋太のその反応が面白くて仕方がない。
笑い声こそあげないものの、ほんの少しだけそれを表情に出すので秋太にとっては、
それが気味悪いようだ。

「ふーん」

「手、つなぐ?」

「別に手じゃなくてもいいんじゃねーの…尻尾とか」

「俺のしっぽ掴んだら、力が使えなくなるよ」

「どーしても手じゃなきゃダメなの…」

「うん」

はい、と差し出された白い手をやや暫く見つめて秋太は唸った。
何を躊躇うのかと言えば気持ち悪いのこの一言に尽きる。
小学生でも子供でもましてやこいつは女でもない。
雄だ。

「女の子じゃあなくて残念だねえ」

「うっせ」

みのるの手を掴んだら予想以上に柔らかくて、ひんやりしていた。








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