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地面にめりこんでいる細くてしなやかな筋肉質の足は綺麗な茶色で、
さっきから生暖かく獣臭い息を吹きかけてくる動物はいまだに
秋太の首すじやら頬やら肩やらに顔をこすりつけてくる。
体の大きさが二倍もある鹿の顔を手で力一杯押しのけるが人間と大きな鹿との力の差は計り知れなかった。
必死の思いで四肢の間だから抜け出し、鹿が迫ってこないかと
少しずつ間合いを取っていると頭の上から笑い声が降ってきた。

「あっははははっ!それくらいにしてあげなよ」

「てっめ……」

「ああ、泥だらけになったねえ、秋太…ははっ」

「きつねー!感動の再会を邪魔するんじゃないよ」

「残念ながらこっちは感動していないみたいだよ、鹿」

制服の殆どに湿った土がこびりついてこれは洗濯が大変そうだ。

「嘘だ!秋太!俺だよ?!」

「しらねーよっ誰だよ!」

「ほらぁ」

ね?とそれでもまだおかしいのか顔がにやけているみのるは小首を傾げて見せる。
鹿の表情は変わらないもののすっかり首を落としてしまい
まるで落ち込んでいるように見えるから不思議だ。
どんなに落ち込まれようとわからないものはわからない。
心の中で呟いてもう先ほどのように興奮して覆い被さってくる危険性は無くなったのを
確認するが用心してみのるの後ろの方に立った。

「君のお父さんと一緒に助けて貰ったんだよ。人間の罠にかかって」

「俺も見てた」

「見てたって言うかみのるを追いかけてたんだからな!」

「俺はちゃんと言ったよ、その辺りに罠があるって」

「…馬鹿なの?」

「子供だったんだよ」

は?と聞き返すとみのるが鹿のそばへ行ってその首筋を撫でた。
立派な角は見れば見るほどに迫力がある。

「子鹿だったんだ、その時は。やんちゃ盛りで。でも罠にかかって足を捕られてるところに秋太の父さんと小さい秋太が来たんだ」

「…覚えてない」

「そうだねえ、あの頃は…君が生まれて間もない頃だったから仕方ないかもねえ」

ゆるゆると話すみのるはまるで父親のような口調だった。
少し不思議に思って秋太が眉を潜めてみのるを睨むとみのるはへらっと
表情を更に弛ませる。
狐には元々シャープなイメージがあるので性格も、
化けたときの外見も『そう』なのだろうと思っていたがみのるは全くその逆だ。
何を考えているのかわからないくらいにぼーっと呆けている事もしばしばだし、
話し方も比較的のんびりしている方だ。

「…みのるオヤジくせえ」

「ははっ、そりゃあそうだよ秋太の父親と同じくらいの年齢だし!」

「えっ!」

「俺はー、俺は人間で言ったら20歳くらいだって!」

「お前のは聞いてない」



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