16

ストラスはその他大勢を乱暴に縛り、イフナースをそれはそれは
『丁重』に縛り上げた。
そして身動きの取れないイフナースの右腕だけを自由にしてやった。

「ねえ、フルフルとエンケラドゥスは今どこです?」

「貴様に教えて何になる」

「それもそうですね。まあ、教えてくれてもくれなくても」

そこまで言ってストラスは言葉を発するのをやめた。
イフナースは眉をひそめて右肩と右手首を握られる感触に冷や汗を一つ流す。
腰のあたりにストラスの体重を感じて息を止めたが激痛は体中を走り抜けた。
イフナースの腕の骨をいとも簡単に折ったストラスの動きは実に無駄がない割りに、
折り方が『へたくそ』だった。
下唇を噛んで苦痛に顔をゆがめながらそっとストラスを盗み見たイフナースは
笑ってもいない、怒っているわけでもないその表情に気おされた。
わざと痛みを感じるようにイフナースの腕を折ったストラスは
それが息をするように当たり前の行為だと言わんばかりにイフナースを見下ろしている。
例えば、その辺に生えている草だとか、花に群がる虫のほうがまだ
愛着を持ってもらえているだろう。
人とも、生き物とも、そもそも存在していると思われているのかさえ不思議なほど、
ストラスの目には『イフナース』が映っていなかった。

「シヴァを怖がらせてくれたお礼です。うれしいでしょう?」

うれしくなどない、と言いかけて口を閉ざす。
次にどこの骨を折られるかと恐怖したわけではなく、この男がよくわからなかったからだ。
なぜわからないのかもわからない。
けれどもはっきりしているのはこの男を自分の主のもとへ連れて行ってはいけない
ということだった。

「ストラス!?」

少女の声が広場に響きストラスはそちらへ顔を向けた。
シヴァが大きな荷物を抱えて、別れた時とはうってかわった風景に体をこわばらせている。
その後ろにはシヴァよりも大きな荷物をこれでもかと持たされてちょっぴり不思議そうな
表情のゴゴウが立っていた。

「なに?どうしたの…って、あ!この人!」

「ばったり出くわして、僕がやっつけました」

「ストラスが!?うそ!」

「ほんとですよう」

気持ち悪いと思った。
さっきまで人形のような目で自分を見下していた男は
ゆるゆると表情を緩ませて少女からの賛辞を待っている。
実際に、少女が感激してストラスをほめるとストラスは子どものように頬を紅潮させて
喜んだ。
それからイフナースはやっつけた、などと軽い言葉で片づけられたことにかなり腹が立った。

「でもよかった、これで色々わかるね!」

「ええ、さっさと城に突き出して全部吐いてもらいましょう」

「フルフルと、エンケラドゥスの、ことは?」

「あとで聞きます。とりあえずは連れて行かないと」

シヴァは心なしか嬉しそうなストラスの横顔を見てつい口の端が緩んだ。
シヴァにストラスをここへ連れてこさせたあのフルフルの言葉はきっと、
このためだったのだ。
イフナースを捕まえさせるためにストラスをここで待たせたのだ。
それはつまり、フルフルとエンケラドゥスはストラスを裏切ったのではなく、
助ける為に動いているということなのだ。
そう思ったシヴァは嬉しくて買い物の荷物を力いっぱい抱きしめる。
徐々に騒動を聞きつけた街の人たちがわらわらと寄ってきてゴゴウたちがせわしなく動く。
イフナースの身柄だけはしっかり確保して、ほかの男たちは人数が人数の為、
さっさと街の警備に突き出す。
仮に彼らも同行したとしても恐らくイフナースは大した情報を彼らと共有してはいないだろうと踏んだからだ。
三人はイフナースを街のはずれの人気のないところまで運び、シヴァがガレルを呼び出して
早速城へと戻る。
これまで一番の飛行距離であったがドラゴンのガレルは嫌なそぶりも見せずに
シヴァにおとなしく従っておりドラゴン遣いのすごさを改めた感じさせられた。
とは言え無理をさせてしまったと、ストラスはシヴァに聞いたガレルの好物である花を後で
沢山与えることにした。
城下町に着くとゴゴウはシヴァの買い込んだ荷物や自分たちの荷物をストラスの家に運ぶと言い、さっさとストラスの自宅へ向かっていった。
ストラスとシヴァはイフナースを伴って、とりあえず竜騎士団長のセシリオを訪ねることにした。



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